・『エミル(mode=Ratatoskr)×うめぼし』 謎のコラボレーション ・『輪廻』 赤エミの或る夜。微グロ注意 ・『転生』 ↑の続き。緑エミルの或る朝。 ・『でっどえんど』 BAD END。エミマルっぽい ・『究極の自己愛』 緑エミルと赤エミルとお互い。 ・『最悪の自己嫌悪』 ↑の後の話。 ・『最後の自己完結』 上2つの続きで、完結編。 帰る
『エミル(mode=Ratatoskr)×うめぼし』(TOS-R) 「みんな。ここいらでちょっと休憩しないか。」 しいなの一声で皆の足が止まる。 ここでいう『休憩』は、食事休憩のことを指していて、そしてその食事を用意するのは基本的に言いだしっぺの仕事だった。(ただし大概の場合、料理ができる人材に限られる。) つまり、この場合はしいなである。 「そろそろ食材を補充するべきかもしれぬな。」 「まあ、あるものを使えば良いさ。」 「おにぎりかー・・・。確かに、ライスは余り気味だったもんね。」 「んなもん、食えりゃ何だっていいだろ。」 リーガルやしいながパーティにいると、野営とはいえ豪勢な食事が出てくるので、この本来あるべきシンプルさは逆に新鮮だ。 少し寂しさも覚えるけれど、旅や食材の消費ペースを考えると、このあたりが妥当なのかもしれない。 「おにぎりをなめちゃいけないよ。 保存もきくし、作るのも簡単だし、食べやすいだろ。」 「うん、そうだね。いただきまーす。」 均一な大きさのおにぎりをひとつ、手に取る。 しいなが作るおにぎりは、いつもカタチがサマになっている、とマルタは常々感心している。 とても綺麗な三角形だ。 「この列がおかかで、こっちがコンブで、こっちが梅干だったかね。」 「じゃあ、これはおかかだね。」 隣のエミルは既に半分ぐらいを食べている。 「そういえば、エミル。下らぬことを聞くが・・・。」 「あ?」 「いや、仲間にした魔物の名前は、お前が付けているのか?」 「・・・。中にはそういうのもいるな。だが基本的にはあいつらは元々名前を持っている。 それを俺達の言葉に変換したらああなるだけだ。」 「そうなのかい。なーんか、たまに妙な名前のヤツもいると思ってたんだけどね。」 「それは俺がつけたんじゃねーぞ。」 不意に、しいなとリーガルの目が遠くを見つめたが、その先に在りし日のコレットが居ることを、エミルも、マルタも、テネブラエも知らない。 『前々から思っていたのですが・・・。』 「どうしたの、テネブラエ?」 『この、おにぎりという食べ物は、混ぜてしまうと中身がわからなくなってしまいますね。』 「あはは、そうだね。 それを利用したロシアンおにぎりっていうのがあってね・・・。 って大丈夫かい、エミル。」 しいなの話は中断された。 自分の話題が終わるとさっさと食事に戻ったエミルから、不意にバキッ、と嫌な音がしたからだった。 「え、うそ!? 今の何の音!?」 マルタが心配そうな声を上げる。 無理もない。エミルが、あのエミルが口を押さえて俯いたまま、ピクリとも動かないのだ。 「だ、大丈夫・・・?」 「・・・タネが・・・。」 「梅干の種かい?抜いておけばよかったね・・・。」 『気付かずに噛み砕くとは、エミルもなかなかですね。』 「うるさいぞテネブラエ・・・。」 うっかり衝撃で舌も噛んだようだったが。 「いい。なんともねーから、構うな。」 多分、心配される方が痛むのだろう(意地とかプライドとか)、ひらひらと「しっしっ」のアクションをされて、皆一様にわざとエミルから意識を外した。 「あれは結構大きかったと思うよ。」 「あ、うん、えーと、そうだ、しいな。ロシアンおにぎりの話。」 「ああ、そうだね。」 バキッ 「・・・・・。普通はこういう、食べられるものを具にするんだけどね。ロシアンおにぎりはちょっと違うのさ。 それはもうわさびとかからしとか・・・・」 ゴリッ 「・・・・。 そ、そんなの食べられるの!?」 「んー、まあ、無理だね。普通に考えて。」 ボリボリ 「・・・。だから、まあ、ちょっとした罰ゲーム的な遊びなんだよ。」 「ば、罰ゲームなんだ・・・。」 ごくん。 「呑んだの!?呑んだのエミル!?」 「なんつー無茶をするんだい!」 「・・・な、なにかマズいのか・・・?」 耐え忍んできたツッコミが炸裂した。しかしエミルはよくわかっていないようだ。 『・・・。やれやれですね。』 「全くだな・・・。」 ↑ ----------------------------------------------------------- 『輪廻』(TOS-R) 無性に寒い日があって。(他に形容する言葉を知らない) 今日がそれだ。 野(フィールド)に佇む。 ケモノをおびき寄せる方法は知っている。(いつの間に覚えたのかは知らない) 小さな殺気(ケハイ)を流せば、ひた、ひたと寄ってくる気配。マナの気配。 逆に遠ざかる存在もあるが、そんな弱者に用はない。 おびき寄せた魔物に剣を抜く。 潜めていた殺意を研ぐ。 隙を見せて狂気を煽ると、獣はいとも簡単に興奮状態(トランス)に陥る。 まるで降りかかる火の粉を払うように。 襲い掛かる贄を嬲る、やることは、それだけ。簡単だ。 切っ先を滑らせ肉を断ち、刃を穿ち骨を砕き、骸を足蹴に臓物を潰す。 赤い色白い色、黒い色、落ちてぶつかり積み重なり、溢れて流れて汚す。穢れる。 動かないものに興味はない。 見込みのあるものは生かして縁を結び、それ以外からは赤を抉る。 躊躇なく浴びる返り血は温かく、その匂いがちりちりと胸を灼く。相手もわきまえず、ただ目の前に存在あるからと襲い掛かる愚かな魔物、その姿は多分、そのまま自分のそれを投影している。 冷静さか弱(おくびょう)さか、圧倒的な強さ。どれかでもあれば生き残れたのに。(そして俺はといえば、そのどれをも持ち合わせていない) 切り捨てるたびに焦燥が募り、振るう刃の動作が杜撰になる。(この気持ちは、なんだ。何なんだ・・・) こうしなければいけない気がする。もっと、もっと。 こんなもんじゃない。もっと、世界を陥れるほどに。たくさんの赤色を見なければいけない気がする。 でも、違うんだ。それはこんな色じゃない。(どう違うんだ?) 血の匂いに何かが引きずり出されそうで、けれど届かない。まだ。それは、まだ、足りないからなのか。 ごろごろと転がる肉塊、広がる血溜まり。そんな不安定な足場にももう、慣れた。 数えるのも面倒な、幾度目かの夜の宴。 旅が進むたび、強さを増す謎の焦燥、由来不明のこの寒さ。それが解消されるわけでもない、むしろ拍車がかかるだけというのに、また独り静かに町を抜け出す。 仲間達への言い訳も、そろそろ苦しくなってきた。それでも。 飽和した衣服は、ぼたぼたと途切れなく返り血を零す。 戦い続けた後の疲労が、緩やかに体を地面へと誘う。 少し身を任せて、停止する。体も心もなにもかも。 血の匂いに包まれて思考を切り離すと、心が少し明るくなる。まるで霧が晴れていくみたいに。 それも、無心でいる間だけの話だけれど。 夜は碧く、闇は赤いのだと、なんとなく思っている。なんとなくだ。 呼吸を落ち着ける間、じっとりと広がる蒼さに気をひかれ、ずっとそればかり見ながらそう思った。 何故赤くないのだろう、と、思った。 正体の知れない違和感を抱きつつも、体を預ける幹の、不揃いなごつごつとした感触が何故かとても心地よくて、ここにxxがあればいいのに、と思う。 赤い色が地面を汚し、鉄の匂いが胸を灼くけれど、木の幹から伝わる音が、風吹きざわざわ揺れる葉の音が、どうしてか大きな安らぎをもたらす。 そよぐ緑に、大地は赤い。 「・・・汚して、ごめんな。」 口をついて出た言葉に、自分が一番驚いた。 その音色にも。 こんなにも、優しい気持ちは、何故だろう。 赤く汚れた大地をそっと撫でると、こつん、と指先に何かが触れた。 万が一にも壊さぬよう、そっと離して目を凝らすと、それはひとつのどんぐりだった。 滑らかな殻には亀裂が走り、小さな芽と根が、空と大地を指している。 その在り様は崇高で、呼吸さえも忘れてしまうほど。 こんなに小さな小さな芽に、まるでかしずくように。 跪いたまま、動くことを忘れてしまう。その時に生まれた気持ちは、なんて言えばいいのか。 胸に走った熱さと痛みの正体は、何なのか。 (俺はそれを表わす言葉を持たない。) (俺はそれを知る術を持たない。) (ぼやけた視界に熱を溜めて) (また、たくさんの赤を浴びなければならない、気持ちに駆られた。) ↑ ----------------------------------------------------------- 『転生』(TOS-R) とても寒くて目が覚めた。 それもそのはず、宿屋であるはずのそこは何故か野外で、草原の上にただ丸まっているという状態だったのだ。 この目覚めに至る記憶が全くない。だから、思わずヘンな声を上げてしまったのも仕方のないことだ。 しかも、何か気持ち悪くて嫌な匂いがすると思えば、全身に生乾きの血がこびりついていて、自分の周りの地面も赤黒くなっている。 この匂いに釣られた獣は、契約した覚えのない、見覚えのない魔物に狩られている。(記憶がないだけで多分、契約してはいるんだろう。) とにかくそのおびただしい量に、身の安全を確かめる。幸い、軽い怪我だけだった。 ラタトスクモード、と呼ばれるほうの自分が、時折夜中に町を抜け出すことがある、と仲間達から聞いていたので、多分これがそうなのだろうと推測がつく。 けれど、それを自覚したのは初めてだ。まさかこんな状態になっていたとは。 (帰らないと。みんな、心配してるかもしれない・・・。) その前に、返り血をどうにかしないと町に入れないかもしれないけれど。 守っていてくれた魔物に合図を送り、立ち上がる。 (でも、なんだろう。とてもいい夢を見た気がする。) (思い出せないけど、・・・お母さんの腕に包まれるような、そんな温かい、感じ。) 歩き始めたエミルを、魔物が、くい、と引っ張って足止めする。 「?どうしたの?」 そっちには行くな、という合図に思えた。 確かに、その先からは、何かうごめくような騒々しさを感じる。 「・・・でも、ごめん。少しだけ・・・。」 行くなといわれたら行きたくなる、という心理とは別に、何かがエミルの注意を引いた。 その重みは、呵責にも似ている。 その先は、地獄のようだった。 ひどい匂いで、ひどい光景で、ひどい音がする。 大量の血液の痕跡。 ごろごろと積まれた山は多分、全て死骸で、それをあさる獣たちによって或いは打ち崩されていた。 ぎゃあぎゃあと食事を争う声。 エミルは、近づくことができなかった。 「・・・あれを、僕が・・・。」 口を覆ったのは、多分、呟きを自分へ還すためだった。 記憶はないけれど、自分の状態を見れば導くのは簡単だ。それに、血の跡はずっと続いていた。 ずきずきと、胸が痛んで、頭が冷える。 「・・・ひどい・・・。」 襲ったのは、ひどい虚脱感と悲しみ。痛みを伴いながら。 「ひどい、よ・・・こんなこと・・・」 握り締めた拳に、鈍い痛みが生まれる。 どうして、と噛み締めても答えはない。 自分なのに。自分のこと、なのに。 これが、平和な町を抜けてまで、自分がやっていること。 何の為に? 何を思って? (悲しくないの?) (こんなことして) (平気なの?) (これを見ても) (意味があるなら、教えてよ) (知りたいよ、ねえ、答えて・・・!) 答えはないまま、陽だけが昇って、平和な町へ戻る、時間へ。 ↑ ----------------------------------------------------------- 『でっどえんど』(TOS-R) ひとりよがりと大きな誤算。 ちっぽけだった決意が、あんなに強くなっていたなんて。 エミル―否、精霊ラタトスクというべきか―のその矮躯から繰り出される、信じられないくらいの剣圧に、立ち向かう人間二人が間合いを取る。 彼を支える8つの力、そのうちのひとつが欠けているとはいえ、そもそも彼とヒトとでは起源が違う。 気を抜ける相手では到底なかった。けれども、闘志を殺がれる。 だって、彼は、或いは仲間であり、或いは想い人、なのだから。 (エミルは、こんなこと望んでない) (だってあんなに苦しそうに悲しそうに) (殺[かいほう]されることを願ってた) 言い聞かせることで奮い立つ。言い聞かせる言葉で更に沈む。 人間全てを睨みつけ、マルタの首を締めた、彼は。あの優しいエミルでも、あの不器用なもうひとりのエミルとも、違って見えた。 憎しみに穢れた、怒れる精霊。 (でもエミルは、そんなこと、望んでない) (戦わないと) (戦わないと) (エミルのために) ロイドが前線に立ち、マルタが魔法で援護する。 マナを練るために、心静かに、呪文を唱える。 この世界にあふれるマナの、流れを読み取り、属性を集めて、カタチへと。 標的は――― (エミル) 拮抗する刃越しに目が合った。 魔法として統制されたマナがざわつく。 まだ、詠唱中だ。心を乱しては、いけない。 (エミルの、ために) 刃の振り方が、ステップの踏み方が、 繰り出す技がその癖が、そっくりそのままで、調子が狂う。 当たり前のことだけれど。 背中を預けあった仲間とこうやって、殺意の篭った切り合いをするのは初めてじゃない・・・けど、慣れることなんて、できそうにもない。 刃を切り結ぶと、否が応でも視線が合う。それは相手の出方を探るためでもある。 だけどこの時はそれだけじゃなく、エミルの、精霊ラタトスクの真意を知るために。 二年前の旅で、色んな精霊に出会った。 けど、この目は、なんだろう。 そのどれよりも、人間じみて見える。 (当たり前だ、エミルは人間として生まれたんだ) (・・・?) はた、とロイドが一瞬、集中を解く。 ・・・今、なにか、矛盾していたように感じて。 「考え事とは、余裕じゃねえか。」 嘲笑と共に、斬撃。 辛うじてかわすも、・・・間合いが、開きすぎた。 気がつけば既にエミルはその俊足で駆け出していて、そして、それはロイドに向いていない。 「・・・マルタ!」 詠唱中だったマルタが、はっと顔を上げる。 紡いでいた詠唱が途絶えたのは、ロイドの呼びかけがあったからでも、殺意が自分へ向いたからでもない。 姿勢を低くして―彼の一番速い走り方だ―エミルが駆け寄ってくる。 その姿に ―そんなとこでボーっと詠唱してんじゃねぇ!!― ―ご、ごめん。・・・ありがとう、エミル。― ―・・・いいから、下がってろ。俺が蹴散らしてやる。― ―マルタ、大丈夫!?怪我は!?― ―大丈夫だよ。ありがとね、エミル。― ―ごめん、次はもっとちゃんと、守るから。― (エミル) 「マルタ!!」 名前を呼んだのはエミルではなくロイドで、エミルがこちらへ向かうのは、マルタを守るため、ではなく。 (だめだ私こんなこと考えてる場合じゃ) 不完全な詠唱が終わらないままエミルが目の前にいて 振りかぶった刃の、知り尽くした軌道。かわすことは不可能なんかじゃなかった。むしろ、簡単なはずなのに 悲しくて動けないなんて今更、何の言い訳にもならない こんなことになるなんて やがて来る別れを前に、ひと時ひと時を大切にしてきたつもりだった。 でも結局、全然足りない共有したい時間も伝えたい言葉も全部全部。 それでももし、せめて最期に許されるのだとしたら唯ひとつだけ (エミル、大好きだよ) 目を閉じることなんてできなかった。 だって、彼がすぐそこに居る 交錯する視線 そのときのせいれいのひょうじょうのへんかに だれかきづくことはできただろうか 「・・・・・・・・・・マルタ?」 ずっしりと圧し掛かっていた、憎悪の渦のような激しいものが、幻のように消え去った。 精霊に呼応していた荒ぶるマナは、途端にしんと静まり返る。 エミルの手から、するりと剣が落ちて、がらん、と無音に響き渡る。 殺し合いへと突き動かすものがなくなって、ロイドもその刃を下げた。 ただエミルを見ている。 「マルタ・・・。」 倒れたマルタに、ギリギリまで手を伸ばして、それでも触れることをためらった。(その手は、ひどく震えている) 「どうしてマルタ、ねぇ、嘘だ、なんで」 ギリギリの距離で、震える手。触れることを恐れるように。 「違う、こんなはずじゃ、マルタ、違う、僕は・・・」 確かめることを恐れるように。 「傷つけたかったんじゃ、ない・・・・!」 ついに触れないまま、エミルはその手で顔を覆う。その色は、真っ青だった。 「・・・どういうことだ、エミル」 矛盾と違和感が、渦を巻く。 ロイドは惑う。 たくさんのことがありすぎて、一体、何からしていけばいいのか。 「お前、まさか、・・・・・嘘、だったのか?」 『・・・エミル様。』 大切な仲間、友達も。忠実な僕(しもべ)も。 今のエミルには届かない。 右腕に残る生々しい感触と、目の前に散らばる薄茶の髪。それが全て。 (マルタ) (僕の所為) (僕の所為で、マルタが) (大好きだった。) (大好きだって言ってくれた。) (かけがえのないものだったんだよ。僕にとって、一番って言っていいくらいに) (幸せになって欲しかった) (僕に色んなものをくれた、大切な女の子) (それを、僕が) わんわんと鳴る音は風鳴りか耳鳴りか悲鳴か誰かの声なのか (全部、僕の所為) (たくさんのヒトを傷つけて狂わせて) (マルタまで) (これ以上の罪は要らない) (早く、全部、終わらせないと) (それなら) (償う方法なんて、もう、ひとつしか、ないじゃないか) (そして、それこそがこの僕には相応しい) 指先に触れたもの、何故だかとても懐かしく感じられて、思えばこれひとつとっても色んな思い出がある。とても大切な。 その一つ一つを噛み締める余裕なんてない。きっと永久に。 握り締めると、馴染んだはずのそれ、だからこそのちょっとした違和感。あまり逆手に握ることはないから。 見つめると、刃が赤い。 ヒトを切ったのだから当たり前だ。 その色を前に、ただ懺悔。 「エミル・・・・!?」 その音は、僕の最期の名前。 たくさんの死地を潜り抜けた友達と仲間と僕(しもべ)と刃と、ここでお別れ。 たくさんのヒトを切ってきた。だからこそ知っている、確実に助からない場所を貫く。 腹から、背中まで突き抜けた刃に、力を込めるとぷちぷちと内臓の切れる音。広がる傷口から流れ出るものは、血のように見えて、空気に触れた途端に発光して溶け出す。その名前をマナという。 それはとんでもない痛さだった。 存在そのものが掻き乱されるような。 楔の刺さる腹部から全身、爪の先まで、熱い何かが駆け巡る。自我が崩壊しそうなほどに。 これが罰(むくい)なのだと、その痛みを受け止める。 遮断しかかる痛覚をこじ開けて、全身の組織が(自分そのものが)崩壊する、その断末魔を聞く。 「・・・そうだ。」 誰も傷つかない。誰の手も汚さない。誰にも罪を渡さない。 エミルは笑う。 自分がどこで間違ったのか何を違えたのか、最後の最後に気付いた。その安堵から。 その後悔の、やるせなさから。 「初めから、こうしておけばよかった・・・」 傷を負うのは、一人で十分だったのだ。 誰も巻き込まずに、一人で逝けばよかったのだ。 (そうしていれば、マルタは) 『エミル』を構成するマナが、その破綻をもたらした傷口から、光となって融解していく。 この地の底で、その光は何よりも眩しい。 「あとの封印は、お任せします・・・。」 光に消えていきながら、憂うのはただ一つのこと (マルタ・・・・・) かの魔物の王が墜ちた音は、とてもとても軽いもので。 輝きながら。物言わぬコアは、引き寄せられるように、マルタへと転がり、ぶつかって、止まる。 「う・・・・・っ」 応えるように。マルタが、ぴくり、と動く。 「エ・・・ミ」 上身を起こした時、ばたばたと血が滴る音がした。よろめきながらもなんとか腕で体を支えようとするマルタに、リフィルが駆け寄る。 それがたどり着く前に。マルタは、自分に寄り添う宝玉を、見出した。 赤い、透ける球。中央には蝶の紋。 小さな光の粒がその周りを巡っていて、お星様みたいだねって、父親と話したこともある。 テネブラエなんかは、その意味について滔々と語ってくれたりもしたものだ。ほとんど憶えてないけれど。 遠い昔のことみたいだ。この宝玉は半年前にその姿を変えて、そして、再会してからは、マルタを傍で守ってくれていた。 出会ってから、数えてみても、本当はあんまり時間を過ごしていない。 けれど、ずっと一緒に居たみたいに感じる。 その声もその姿もその仕草も、記憶に、心に馴染んでいる。 怒るとちょっと怖いけど、笑顔がとても優しい・・・・・ 「エミル・・・・・!!!」 マルタとラタトスクを繋いでいた額の蝶の紋が、その時砕けて破片になった。 それは落ちながら溶けていき、どこにも、何も残らない。 エミルは死んでいない。 人間が定義する『死』と、今の彼の状態はイコールではない。 例えるならそう、深い眠りについている、といったところだろう。 目覚めれば、また会える。 色んな誤解を解いて、新しく始めることが、やり直すことができる。 封印とは、それが解かれるまで目覚めることがないという意味だ。 そしてそれが解かれた時、この世界は魔界へと落ちるのだろう。 だからその封印は、永久に守られなければならない。 それは、エミルが二度と目覚めないことを指す。 一体、『死』とどう違うというのだろう。 もう一度、やり直したいと、マルタは思った。 赤い宝玉を抱きしめて、これを誰かに何かに返すことがあるならば、それは彼以外にありえないと思った。 せめてさよならを言いたかった。 叶うなら、空想でもいいから将来を語りたかった。 いつかまた出会える奇跡を、嘘でもいいから、誓いたかった。 本当は、ずっと、ずっと傍に居たかった。 体温を分け与えるように、強く、強く抱きしめて、呼べば応えてくれないだろうか、と思う。 いつかみたいに。 呼びかけても、返るものは何もない。 もう一度、やり直したいと思った。 けれど、何よりも主の意を尊重するセンチュリオンたちと、境界の門を叩く激しい音に 急かされ、責め立てられて マルタはそれを、手放した。 それは永遠の別れ。 どんな奇跡もおこらない。 彼女は地上で短い生を過ごし 彼は何万年も何億年も、恐らく世界が滅びるまで、境界の門で眠り続ける。 何万年の歴史の中で、奇跡のように出会ったひとりの少女とひとりの精霊。 その二つの命が交わることは、二度とない。 ↑ ----------------------------------------------------------- 『究極の自己愛』(TOS-R) あいうえお。 と呟けば、目の前の自分も同じ形に口を開く。 ぐ、と眉間に力を込めると、目の前の自分が怒った顔になる。 逆に力を抜いて頬の肉を持ち上げると、目の前の自分は笑みを作る。 顔を寄せるとその距離は近づいて、ごつん、とぶつかると硬くて冷たくて、痛い。 「・・・・・。」 なるほど。ここに居るのは僕らしい。僕と一口に言ってもその定義は色々で、僕とはつまり僕だ。えっと、つまり。なんて言えばいいんだろう。どこかのお偉いさんが言っていた。思うとおりのことを喋れて、思うとおりに体を動かせる。ここに『僕』がいると感じている。それが『僕』だ。なんだかゲシュタルト崩壊が起こってきた。 『・・・エミル。一体何をしているんですか。』 鏡の前で百面相。その後に頭をそれにぶつけて、そのまま動かないで居る。 どうみてもただの不審人物だった。 考え事の間に体温が移って、硬くて痛いガラスは、今温度だけは持っている。 「テネブラエー。」 鏡が写すのは姿だけで、音は紛れもなく、ひとつしか生まれない。つまりそこが本物と虚像の違い。 「ヘンなんだ、最近。時々、『僕』が消えちゃうんだ。」 『・・・・?』 「・・・あっ、ええと、つまり、ね。記憶が飛ぶことがあるみたいなんだ。最近になってそういうのが増えてきた気がして・・・。」 『・・・そうですか。例えば、どんな時にそれを感じるのですか?』 「そうだね・・・。例えば、仲間になった魔物と、契約した時のことが思い出せない、とか。戦闘で拾ったアイテムのこととかも。・・・要するに、僕がラタトスクモードになってるはずの時のコトなんだけどさ。」 『・・・・。』 「ヘンだよね。自分のことなのに。」 鏡の中の自分と拳を突き合わせながら、零れる言葉は愚痴のよう。 「気持ち悪いよ。」 『・・・気持ち悪い、ですか?』 「うん。なんだかモヤモヤして、つっかえてるみたい。」 鏡の中の自分を見つめる。 どれだけ目を凝らしても、瞬きの瞬間だけは、見ることができない。 「自分のことなら、知ってて当然でしょう?無意識(イド)ならともかくさ。 覚えてない間、僕が何してるのか、気になるよ。すごく。」 愚痴を零しながら、ガラス面に指で何かを綴るエミル。 それが不意に、眼光鋭く、銀板に映る自分を睨みつけた。 「馬鹿なヤツ」 『・・・エミル・・・。』 「気に入らないなら、奪い取れよ。 テメーが不甲斐ないだけじゃねえか。 俺に押し付けてねえでテメーで何とかして見せろよ。甘ったれんな。」 虚像を睨みつけるエミルは同じく虚像の眼光に射抜かれるも、怯む気配もない。彼はそんなモノで怖気づいたりはしないのだ。 『今のは、そういう話だったんですか?』 「さあ。しらねえ。」 その言い分はぞんざいで、心底どうでもよさそうだ。 それでも、鏡を見つめることはやめない。 「あいつ・・・っつーか俺だが、見てると腹たってくんだよ。なんかしらねーけど・・・。 ・・・ちくしょー・・・」 ごつん、と音がして、エミルは鏡に額を突きあわせる。その光景は、今日で二度目だ。 「・・・なあ、テネブラエ。」 『はい。』 「戦う理由がなくなったら、俺は」 「もっと強く、なりたいなあ・・・。 ・・・って、あれ、僕、どこまで話したっけ?」 ぱちくり、と瞬きをする。 独り言はテネブラエにも向いていて、その視線は鏡越しに交わる。 『・・・エミル。』 「なに?」 『戦う理由がなくなったら、貴方はどうしますか』 「戦う理由が、なくなったら?」 『はい。』 「嬉しいよ。」 『・・・そうですか。それだけですか?』 「だって、戦わなくてもいいんでしょう? だったら、ゆっくりしたいな、僕。そしたら、あんまり怒らなくてすむし。」 『・・・怒らなくてすむ、ですか?』 「うん。あんまり覚えてないんだけど、最近よく怒ってる・・・気がするんだよね。 だから、そういうのなくてのんびりできたら、幸せ。」 『幸せですか。』 「そう。」 はにかんで笑う。虚像も笑う。 「甘いよな。」 笑っている。 ↑ ----------------------------------------------------------- 『最悪の自己嫌悪』(TOS-R) 夜中、目が覚めたら心臓のあたりがぎゅうぅって、なって 呼吸の仕方を忘れそうな違和感。 小さく体を丸めてやり過ごそうとする。 ―いたい、いたい― 音が響いている。ばくん、ばくん、って。 動けばその痛みが響いてしまう気がして、動けないのだけど心は何かに駆られている。何かって、何。 心だけ飛び出して、どこまでも世界の果てまでも飛んでいってしまいそうな。そんな気持ち むしろ飛び出したい。飛び立ちたい。今すぐに。体さえ動くのならどこへでも。 前触れもないし理由もわからないけれど、この感覚は、何かとても、悪いことをしてしまった時の気持ちに似ている。ああ、おじさんとおばさんは元気かな。 もう一度、眠らないといけなかった。旅は続いている。体も、すごくくたびれている。 もう一度眠らなければならなかった。そのために、この痛みと焦燥を、どうにかしてしまわなければならなかった。 心を水平に横たえて、地面の下まで、深く深く、潜る。イメージ。 胸に渦巻くざわざわしたものはそのイメージと共に深く沈んで、遠く遠くなっていく。 そうすると、段々天の方向から、安寧と共に眠りへの誘いが降ってくる。 はず。 だった。 深く潜った先にうっかりと「それ」を掘り当てて、かちりという擬音と共に、『彼』に全部、引き渡してしまった。そんなつもりじゃなかったのに 「ああぁ・・・。」 痛む胸をかき抱く。 自分でありながらただ傍観していただけのその痛みは、引き受けてしまえばひたすらに苦しかった。 理由を知っているから尚更に。 そもそも『もうひとりの自分』の眠りを妨げたこの痛みは、元々『こちら側』から派生したもの。ならばその苦しみを負うことに異議もない。切り替わったことで、『もうひとりの自分』は眠りとは違うが眠りと呼んでもいい場所まで落ちていったはずだ。それなら今宵、気の済むまで付き合ってやろうじゃないか。独りきりで。 体に負担だけはかからないよう、静かに横たわって目を閉じる。 胸の痛みがぞくぞくと響く。 震えてなんかいない。 震えてなんかいない。 (エミル) それは自分達の名前 (エミル、お前ならどうする。俺ならどうする。) (俺達が居る場所は、少し眩しすぎるんじゃないか) (地の底に潜るイメージ。それがあまりに甘美で苦しくて) (ここは俺達の居場所じゃないんじゃないか) (エミル。どう思う。なあ。どう思う?) (だが、地の底に待つのは断罪と虚無だ) (どこへ行ける。どこへ行けばいい。) (『エミル』の出す解はなんだ。) (俺はそれに従おう) (ああ、答えが半分足りない) 恐らくは断罪されたいのだと そして免罪されたいのだと思う。だからこその痛みなのだろう。 だがもうひとりの自分はユルサナイと裁きを下す気がしてならない。今でこそ罪を自覚してはいないが。 それなら。 痛みがひいていく。胸から温度が引いていく。 (『エミル』が『ラタトスク』の断罪をするなら、それはそれは、滑稽で無様で、何よりも完成された閉鎖的で美しい形では、ないだろうか。) 闇夜にエミルが静かに笑う。 (ああ、未来がどうなるのか・・・。楽しみだ。) 彼は傍観者でありながら、当事者でもある。 当事者でありながら、遠く離れた場所で、小さく息を潜めている。 朝が来て、目が覚めたとき、痛みは既にそこにはなかった。起きてしばらく忘れていたくらいだ。 けれどそれを思い出したとき、なんともいえない、不快な気持ちが心をよぎる。 その正体はわからないが、やるべきことをやらなかった、そんな時の気持ちに似ている。今日のご飯当番は誰だっけ。 なんだか、自分で消化しようとしたものを、誰かに奪われたような気がする。・・・いや、押し付けたんだっけ? 誰か、なんて、浮かぶ存在なんてひとつしかないけれど。 (僕、もうひとりの僕に嫌われてるような気がするんだよな・・・) そう思うのは単なる被害妄想ではなくて、実際に以前テンションが上がった時(その時は何も感じていなかったが、今になって思えばあの時多分、自分はラタトスクモードになっていた)、自分のことを「このノロマ!」とか心の内で罵倒していた記憶などに基づいている。(最近、よく自分がわからなくなることが増えたが、そのヒントは実は記憶の中に隠れていたりするのだった。) 記憶が途切れるようになった。 「戻る」事が、こちらの意思では簡単にできなくなった。 『僕』は何を望んでいるのだろう。 『僕』はどこへ行き着こうとしているのだろう。 痛みを引き受けた『僕』は、どうしたのだろう・・・。 奪われているような気がすると同時に、大切に守られているような気もしている。 押し付けているような気がすると同時に、何かを共有しようとしているような気持ちにもなっている。 行き着く場所に何があるのか。 願わくば、それが優しいものでありますように。 ↑ ----------------------------------------------------------- 『最後の自己完結』 白と風が巡る中で、向かい側に僕が居る。 全く思い通りに動かない。喋る言葉の予測がつかない。何を考えているのか知れない。 それでも『其れ』は僕だ。 不遜な表情で堂々とした佇まいで、身長は同じはずなのに、こちらを見下しているようにも見える『僕』は、目一杯不機嫌さをあらわにして口元を歪めた。 「何が可笑しい。」 そう。僕は笑っている。 だって、話に聞くだけで少しもその存在の実感が湧かなかった『僕』が目の前に居るんだ。 なるほど。これが、『僕』。 にやにやと口元を緩ませっぱなしのそいつは、普段の臆病さはどこへやら。こっちの不機嫌には全く構わずに笑いながらこちらをじっと見つめている。 それはもう、頭のてっぺんからつま先まで。 表情こそ緩いが、その目つきは探るようで、まるで観察されている気分だ。それは良いものではない。 「じろじろ見てんじゃねえ。鬱陶しい。」 「ああ、ごめん。珍しくて、つい。」 「俺は珍獣じゃねーぞ。」 「君はそう思わないの?」 「いや。むしろ見飽きた。」 「そっか。」 笑いを潜めて、あいつの顔に仄かな陰がさす。 「君には、全部記憶があるんだもんね。」 白い空間に陰がさす。(気がした。) 「ああ。だから全部知ってるぜ。」 「ホントウに?」 あいつは笑うが、その表情には何か含みがある気がしてならない。 「僕が今、考えてることも?」 ああ。知ってたのか。 あいつに俺が表に出ている間の記憶が残らなくなったのと同時期に、俺にはあいつの思考の把握が難しくなっていた。いや、ひとつに共有していたものが剥がれていったと言うのが正解なのか。感情のトリガーだけは相変わらず共有していて、俺はあいつの思考が読めないままその感情だけで俺達のONとOFFを管理していた。ただ、元はひとつであり、それに俺は常にあいつを監視していたから、読むことはできなくても推し測るのは簡単だ。 そう思っていた。 じゃあそいつが今、何を考えているかなんて。 「・・・それは、テメーの管轄だろうが。」 「キミでも、わからないことがあるんだね。」 意外そうな口ぶりであいつが言う。どこか確信めいた表情で。 「僕が考えているのはね、精霊ラタトスクのことだよ。」 大樹カーラーンの精霊、ラタトスクの怒りは深く。激しく。 人間を滅ぼさんとするほどだったという。・・・。 俺もそう思う。人間が居なくなれば、世界は穢されない。 だが。 『ラタトスクの騎士』は、主(あるじ)にかのラタトスクを持つが、それと同時に人間でもある。 ラタトスクの怒りに同調しながらも、人間である自分を否定もできないから 『ラタトスクの騎士』は、任せようと思う。 『人間・エミル』が人間を生かすのか、『精霊・ラタトスク』が人間を滅ぼすのか 『ラタトスクの騎士』は、見守ろうと思う。 (・・・・。) 見守ろうと思う。結論は出ない。 同じ高みに在る『エミル』と『ラタトスク』が、喩え争いの果てにであったとしても導いた答えなら、それが真理だと思うから。 ただ、ひとつ懸念があるとすれば。 「僕はラタトスクにヒトを滅ぼして欲しくないし」 人間・エミルが 「僕は、ヒトでありたい。」 人間であるエミル=キャスタニエが 「でも、その前に。」 有無を言わせないほどに 「『僕ら』は、決してやっちゃいけないことを、やったんだ。」 大きく、強くなりすぎてしまったとき ここにいるのは『僕』だ。 僕と一口に言ってもその定義は色々で。 ここで言う『僕』とは、 思うとおりのことを喋れて、 思うとおりに体を動かせる。 ここに『僕』がいると感じている。 それが『僕』。 ここにはもう、『僕』しかいない。 記憶が飛ぶことはなくなった。 話す言葉もこの体も心も記憶も、全部が僕の思うまま。 全部僕が背負うもの。もう、何者にも奪われることはなく、押し付けることもできない。 そこまでして、僕は。 多分、断罪されたいのだと思う。 だけど免罪は要らない。 然るべき贖罪を。 ・・・贖罪を! 戦う理由がなくなったら、なんて、甘い妄想。 終わりはこない。永遠に。 幸せなんてそんなモノ。僕達にそんな権利は存在しない。 呼吸を妨げる痛みの理由も、今ならわかる。 意味も重さも。 痛みを連れて地の底まで。落ちていこうか。眠る君を抱いたまま。 それが僕にできるたった一つで、至高の罰。 最期にできる、ただひとつ。 簡易メニューへ↑ テイルズメニューへ戻る