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『ある門番の日常』 ED後の某扉の前にて
『エミル×ハエタタキ』 謎のコラボレーション
『ある過去の分岐』 分裂注意。IFパラレル。精霊ラタトスク。
『血が足りない』 赤みの強いエミルさん
『精霊の穢れ』 上の続き

帰る








『ある門番の日常』(TOS-R)




「これはなんだ。」
目の前に転がり出たソレについて、リヒターは眉根をよせた。
この空間の主である彼はいつもの通りにふんぞり返って、面白くないものを見る目でリヒターを見る。いつもの通りに。
しかし変に真面目なその精霊は、彼を歯牙にもかけないようでいて、いつも律儀な対応はするのだ。こう見えて。一応。
「エミルからの差し入れだ。テメーにも何か気分転換になるものが必要だろうってな。」
「…そうか。」
当のエミルは今、地上にてヒトとしての生活を送っている。正しくは、精霊ラタトスクが地上、地下に同時に存在している、と言うのが正解だが、ラタトスクが地上のことはほとんど自分の良心であるエミルに任せきりなため、僕(しもべ)からも仲間からもそういう認識で通っている。
それはともかく、色々あったが未だリヒターを慕う気持ちの褪せないエミルは、ちょくちょくこうやってリヒターをおもんばかる行動をとるのだ。


「それで、これはなんだ。」
「なんだ、お前、知らないから聞いたのか?」
意外そうな声のラタトスクは、しかし揶揄する様子はない。さては彼も知らなかったクチか。
リヒターのすぐそばに座ってそれを拾い上げる。
色鮮やかなそれらは、びっくりするほど彼に似合っていなかった。
「リリアンっつーんだよ。
エミルのヤツ、今これにハマってるんだと。」
ほれ、とそれ、リリアンの束を投げて寄越すラタトスク。
反射的に受け取ったが、色様々で色鮮やかな細身のヒモ。
可愛らしい彩りは当然、リヒターにも似合ってはいない。
「…どうしろと。」
ここで声を大にして言いたいのは、決してエミルの厚意が有り難くないというわけではない、ということだ。
エミルにも、エミルの大切な人にも刃を向け、憎しみをぶつけた自分を未だ慕ってくれ、あまつさえ地の下で身動きのとれなくなっているこの身を案じてくれるのだ。
…けれど、けれどただ何の説明なく変哲のないヒモを渡されて、どうすればいいのか。
「エミルはマスコットかなんか作ってたぜ。」
「いや、聞きたいのはそれじゃない…。」
「そうか。使い方も知らねーか。
おい、センチュリオンども。誰か教えられるヤツはいるか。
 俺はパスだ。」
ラタトスクは知っているらしい。エミル経由だろう。
しかしラタトスクはモノを教えるタマじゃないし、リヒターも教わりたいとは思わない。
それにしても、いかにセンチュリオンといえど、そこまで俗物に詳しいものだろうか。


と、思っていると。


「はいっ!あたしやります!」
「アクアか。なら任せた。」
「お任せください!」
アクアは嬉しそうだ。
リヒターも、可能性があるならアクアだろうと思っていた。
ふよふよと泳ぎながら、アクアがリヒターの隣へまわる。
他人任せにしておきながら、ラタトスクはといえば座り込んだまま悠々としている…のはもう気にしない。
ともあれ、これでエミルの厚意は無駄にならずに済んだ。





…のはよかったのだが。





「……。」
感じる。
視線を感じる。ついでに細やかな震えも。神経過敏なのかもしれない。
削がれる。
ただでさえ疎らな集中力が!
「言いたいことがあるなら、言え。」
「…。」


返答がないのは分かっていた。
何故なら、彼は今笑いを堪えているからだ。


「…いや…」
やっと返った返事。その声はうわずっている。
「おまえ…、意外と不器用だな…」
「ラタトスク様!ええと、多分いきなりやるのが難しすぎたんですよ!
 次はもうちょっとかんたんなのやりますから!」
完成する前から次の話をしないでくれ。
しかしまあ、リヒターも思う。これはひどい。我ながらひどい。
それはヒトのようなカタチ。頭があり、胴体があり、手足がある。…ハズだ。
なんだろう。ラタトスクの口からマスコットという言葉を聞いて、なんとなくそれを作らないといけない気がしていたが、多分そこから間違いだった。手芸初心者にそれはない。
出来上がりつつあるのは不揃いでぶよぶよな、なんだこれ。ヒトガタと呼んでしまっていいのか。謎だ。解明できないタイプの謎だ。

「…。できたぞ。」
持ち前の強靭な精神力でなんとかそれを完成へと持っていくリヒター。
何をもって完成とするのか、それは妥協点が必要なトコロ。
「可愛いですよ、リヒター様!」
アクアの言葉には救われる。が、リヒターにはそうは思えない。
いや、自作であるという欲目も入れればあるいは…。


サイズの小さなそれを手に、自己暗示のようなにらめっこをしているリヒター。
すると。


「…!?」
突然、それが手の中から転がり落ちた。手を離したつもりも手を滑らせたつもりもなかったのに。
落としたことを自覚し、それを拾うためのアクションをとろうとしたリヒターはそのまま、固まる。


落ちたマスコット?が、自ら立ち上がったから、だった。


『おいこらこのぶたやろう!
 ヘタクソめ!
 スマキにしてくうぞ!』
やいのやいのと動いて喋る。
若干引きぎみに固まるリヒター。
の、お隣さんが震えている。
「ちょっとラタトスク様!
 なにやってるんですか!」
あっさりとバレた真犯人はもう、憚ることもなく笑いだした。
お茶目な精霊もいたもんだ…いやいや、こんなお茶目さはいらない。
彼は精霊であるので、笑いすぎで苦しくなったりだとかそんな人間じみたものはない。気が済むまで笑いこけるだけだ。
「…いいかげんにしろ!ラタトスク!」
いつもは強靭なリヒターの忍耐力も、羞恥心の加速度であっという間に尽きる。
この世と魔界を繋ぐ門は、今誰かさんが作ったモノに誰かさんがマナを込めたせいで、ちょっとしたカオスになっていた。





「なにかあったの?エミル。」
「うん?」
「嬉しそうな顔、してるよ。」
「うん。」
まろやかな日射しの下。
マルタとならんで歩きながら、エミルがじわじわと感じているのは、あたたかな喜び。
「幸せだなあって、思って。」
「…うん。」
「ずっと、続くといいよね。
…ううん、もっともっと、たくさん、幸せになれたら、いいね。」
「うん。あたしも。幸せだよ。」




そんな扉に守られて、今日も世界は廻っている。







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『エミル×ハエタタキ』(TOS-R)




空を切る。


剣とソレ、何が違うかというと、まずは切るか、叩くか、ということ。
それだけでも随分と違う。空気の抵抗感とか。
グリップを握る手のひらに伝わるその違い。
うん。こういうのも嫌いじゃない。


気配を隠すこともしないという、ちょっとアサハカさんの羽音。
油断を狙うまでもない。
逃げ惑っているのか物色しているのか不明だけど、その飛行の最中にだってはたき落とす。


一丁あがり。


手首だけで振ると、ぶんぶんと空中でバウンド。
その動作に意味はなくて、強いて言うなら犬が尾を振る気持ちに似ている。


『精が出ますねぇ』
「テネブラエも手伝ってくれてもいいのに。」


不規則な軌道を目で追いながら。


台所の平和は僕が守る!
…なんてね。


食物に関心がないせいで非協力的なテネブラエ。
ただ、暇には勝てない。


『あ、エミル。あそこに止まってますよ。』


EXPも入らないしGaldも手に入らないけれど、この駆け引きは熾烈を窮める。





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『ある過去の分岐』(TOS-R)




「目が覚めたか」


その言葉で、自分を自覚した。
そうか。目が覚めたんだ。
声の主を探すと、朱線の走る黒い扉、それに埋め込まれた九つの宝珠の下辺りに腰を下ろした誰かが、至極つまらなそうにこちらを見ていた。
自分はその名前を知っている。


ラタトスク。
それがその存在に与えられた名前。
それに込められた深い意味も、今は何故か思い出すことができない。


ラタトスクは不躾な目で睨むようにこちらを見、不愉快な表情をする。


「僕は誰?」
「てめーは俺だ。だが、なんだってそんな姿で現れた?」


ラタトスクの不快の原因は、どうやら自分の姿であるらしく、何が悪いのだろうとそれを確認してみる。
濃い色の、ほとんど露出の無いインナーの上に白いコートを羽織った、二足歩行の生物の形をしている。
首から下の造形を見た感じでは、ヒトかその辺りの姿をしているのだろう。
流石に自分の顔まで確認することはできないが、少なくとも見た限りおかしい場所はなさそうだ。


「僕が、どうかした?」
「・・・・・。」


ラタトスクが黙り、自分もそれを待つと、ずしりと沈黙が横たわる。


静か過ぎる。


その違和感に、落ち着かない。


「・・・なにソワソワしてんだ。」
「・・・あ。いや、静かだなー・・・と、思って。」
「・・・。」


眠るように深く、背を扉に預けたラタトスクは投げやりに、どこか遠くを見る。
不機嫌そうに寄った眉。
・・・いつから、こうだったか。


「目を閉じてみろ。
 地上が見える。」


存外、その声は優しかった。
言われたとおり、目を、閉じてみると、薄暗い闇も朱の光も消えて、ふ、と青い空が浮かんだ。
ざわざわと風の音も、水の音も。群れる獣とそれを狙う目。
青を、白を、緑を、感じることができる。
美しい、世界の姿だった。


目を閉じる。
それだけで、どこへでも行けた。
海の底に咲く花や、木の上、密かに息づく卵。
昼も夜も。
マナと命に満ちた、世界。


・・・何かが、足りない。


「ラタトスク。」
目を開いて、薄暗い大地の下に帰ってくると、ラタトスクも目を閉じていて、
・・・何かを見ているのだろうか。


「ラタトスク。」


二度目の呼びかけで、帰ってくる。
それでも、こちらを見ない。




「ニンゲンが、いない。ラタトスク。」




「ああ。いてもらっちゃ困るな。」
そうだったら、意味がない。
ラタトスクの呟きに、全て悟って、なるほど、確かに自分はラタトスクだ。


何故、なんて言葉は野暮でしかない。ラタトスクの失笑を買うだけだ。
「ホントウに、みんなみんな殺したの・・・!」
口をつくのは、悲鳴だけだった。


「世界は綺麗だっただろ?」
ラタトスクの声色は、とてもとても優しい。
世界の守人に相応しい、慈愛に溢れて。


「やっと帰れた。あのトキに。
 枯れたあの樹が、帰ってこないことだけ心残りだが」
「ラタトスク・・・。」


今、自分がひどい顔をしているんだろうと、容易に想像がついた。
それでも、こちらをちらりとも見ないラタトスクは、それに気付かない。


「僕は君だと言ったよね、ラタトスク。」
座ったまま、ピクリとも動かないラタトスクに、敢えて気配も顕わに歩み寄る。
それでも頑なに、ラタトスクはこちらを見ないでいる。
「僕は、君とは違う。人間を憎んでいないし、大切な、守るべきものだと思ってる。
 それなら、何で今更になって、僕はここにいるの!
 君の憎しみを止めるためでもない、後悔するしかできない『僕』は、何の為に産まれたの!!」
こっちを見て・・・答えて、いや、答えろラタトスク!
張り上げる声に、ラタトスクはようやく視線を動かした。
やっと、正面から向かい合うことができる。


けれど、そこは、空っぽだった。


「本当に、今更だな。」
ラタトスクの嘲笑。
「今更だよ。テメエは初めっから居たんだ。俺を止めるために。
 でも何故だか目覚めやがらねえ。
 だから、俺は本当に、心の底から、ヒトを滅ぼしたいんだって、そーゆーことなんだって、思った。」
空っぽなラタトスクの、自嘲。
「なあ、知ってたか?
 この期に及んで、ギリギリまで、俺を信じた人間が居たんだぜ。
 そのときは流石に、お前も目覚めるかもしれないって、思ったんだが。」


すべるように、扉へと視線を送る。
あらゆる感覚を使って探す。


・・・あった。
透けたラタトスクの、丁度心臓の位置。


「無様だろ?」
彼が扉を離れられない理由を、理解した。
「まさかこの俺が、人間にやられちまうとは思わなかった。
 だが、・・・時間はかかったが、結局俺の勝ちだ。」
扉に封印されたコアに縋る幻影が見せた笑みは、やはり慈愛に満ちていて、何故だろう。それが、泣きそうに見える。


「僕は。」


「僕は、どうやって償えばいい?」


ラタトスクはもう一度を目を閉じて、口元に緩やかな弧を描く。
愛しいものを、確かめるように。


「守ってくれ。
 今度こそ。本当に。」


そう謳って、カタチを変えて、・・・そして、幻影は静かに霧散した。


最後に彼がとった姿。それは多分、自分と同じ姿だった。
・・・覚えがある。これは、自分達が初めて、殺した人間だ。


「・・・・・。」





なにもかもが手遅れで、けれどなにも終わってはいない。


目を閉じれば、世界が見える。





それは確かに、綺麗だった。








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『血が足りない』(TOS-R)




寒い。
とても寒い。


からからに渇いて凍えて凍えて。
屠るように魔物をなぶる。
ほとばしる鮮血が肌を濡らす。それは少しあたたかい。


血が足りない。
寒くて、寒くてたまらない。


もっと。もっと。
吐く息から体温が逃げる。
くすぶる記憶に頭が冷える。
冷たい空気を取り込みながら、温度を求める。


知っているのは奪うという手段だけ。


寒い。
とても、寒い。






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『精霊の穢れ』(TOS-R)




寒い。
とても寒い、のに。
触れられた手が熱くて、逃げた。


名前を呼ばれると、頭を冷やす記憶は吹き飛んで、笑いかけられると、体温を逃がす呼吸が止まる。
交わす会話に、どこからか温かさが入ってきて、心地よくて。


だけど触れた手は、熱い。
独りに逃げ込んで確かめる。あぁ、焼けてはいないみたいだ。


独りに逃げ込んで温度が消える。
冷えて、冷えて止まらない。


あぁ、あの温度が懐かしい。
けれど、触れれば焼けてしまう。


寒い。
凍えて、凍えて


うごけない








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