・『幽霊ストーカーは神出鬼没』 ED後捏造幽霊ストーカーシリーズ エルロン夫妻と彼 ・『幽霊ストーカーはglass Heart』 幽霊ストーカーシリーズ デュナミス孤児院と彼 ・『幽霊ストーカーの描くユメ』 幽霊ストーカーシリーズ デュナミス孤児院と彼 ・『刹那』 カイル独白 帰る
『幽霊ストーカーは神出鬼没』(TOD2) 木立の影で、彼はひっそりとその後姿を見つめていた。 おんぶ紐で赤子をひとり、背中に負って、鼻歌交じりに大量のシーツを干している。 彼女は彼のかつて生き別れていた姉であり、この孤児院の経営者の一人でもある。 決して楽な仕事ではないだろうに、時折背中の赤子に話しかけながらきびきびと仕事をこなす彼女の姿は、生き生きとして見える。 ・・・あの騒乱のあとだ。孤児の数もこれまでの比でなく増えただろう。 それはそのまま彼女の負担となるだろう。それでも、彼女は母親の顔をしている。 彼の知らない母親の面影を、そこに感じることが出来る。 「ルーティ!」 そんな彼女の名前を呼ぶ声に、彼は思わずびくりと身体を震わせた。 ・・・スタン・エルロン。それがその男の名前だ。相変わらず人のよさそうな顔をした、・・・彼の義兄にあたる人物。・・・かなり複雑な心境だが。 「スタン!屋根の修繕は終わったの?」 「ああ。なんとかな。ルーティ、手伝うよ。」 彼にずっと背中を向けていたルーティが振り返ったため、その背中にいた赤子の顔が、彼の目に入った。 (・・・あれは、もしかして・・・) ふわふわとした金色の髪。くりくりとした青い目が、こちらを・・・じっと見つめている。 「うー。」 「どうした?カイル。」 スタンがそのふにふにの頬を指でくりくりすると、そのこども、カイルはこちらから視線を外して父親を見つめ、無邪気に笑う。 どこから見ても、幸せな親子の姿が、そこにあった。 (・・・。) 「代わろうか?」 「いいわよ。カイルだって、スタンよりお母さんのほうがいいわよねー?」 「そ、そんなことないだろ!」 (・・・。) 嫉妬なんてしてない。多分。 (ありふれた幸せ、か・・・。) 嫉妬も憧憬も、今となっては何の意味も持たない。 彼は既に、この世ならざる者だから。 「誰か、そこにいるのか?」 ・・・ん? 「え?ベアかなにかじゃないの?」 ・・あれ? なんかバレてる? 二人はこちらをじっと見て、それから顔を見合わせて。 スタンが、こっちへ。 (いやいや。わざわざそこまでしなくてもいいだろう。) だがしかし、慌てることもないだろう。要は見つからなければ、どこぞへ隠れればいいのだ。 しかしスタンも英雄と呼ばれるほどの手練れだ。ヘタな動作をすれば気配が生まれ、それを悟られてしまう。 至って彼は冷静なつもりだったが、その実、自分がいわゆる幽霊であり、つまり物理的制約を受けない身の隠し方ができることをすっかり失念してしまうくらいには動揺していた。 「・・・!アンタ!」 結局対処が間に合わず、鉢合わせしてしまったのは何故かカイルを背負ったルーティだった。 (いつの間に!) 「ルーティ、どうした?」 続いてスタン。 「あ、あんた、こんなところで・・・どうして・・・」 ルーティの顔が、辛そうに、泣きそうに、歪む。 何か、言うべきなのだろうか。 何故か、なんて、それは話し出すと長くなる。ただ言えることは、エルレインの手で復活させられたわけでもなく、不完全で希薄な存在で、そしてここにいるのが自分の意志だということ。 「ルーティ。」 希薄な彼の身体を突き抜けて、背後のスタンの声がルーティに呼びかける。 「そ、そうよ!あたし、アンタにもう一度会ったら、言いたいことがたくさん・・・!」 目じりにひっそりと溜まった雫を拭い去って、ルーティは逃げ出したいけれど何故か動けないで逃げ出せずにいる彼に、勝気に笑った。 「ほら、カイル。よくご覧。リオン叔父ちゃんよ。」 「うー?」 「お、おじ・・・?」 背後でスタンが噴き出した。 両親が笑い出したからだろうか。ルーティにおぶわれているカイルも笑い出す。 (・・・絶対わかってないな、こいつ・・・) 孤児院の方から、二人を呼ぶ子どもの声がする。 二人はその声に返事をして、さも当然のように、彼を家に招いた。 当然、彼にその誘いにのるつもりはない、というかなかったのだけれど、何故だか断りを入れにくかった。 負い目と、自分が既に故人であることの枷も、どうしてかうまく働かなくて。 最終的に、彼は、ルーティの恨み言小言を聞くことも、自分の業なのだろうと結論付けて。 獣しかいない、誰もいない静かな木立を抜け出した。 ↑ +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 『幽霊ストーカーはglass Heart』(TOD2) 「おとーさん!おかたトントンしてあげる!」 夕暮れ。一人息子の一声に、他の子ども達もわたしもぼくもと声を上げ、わらわらと足元に群れた子ども達に、スタンは床に座らされてしまった。 「おっ?どうしたんだ?いきなり。」 戸惑うスタンに、夕食の準備をしている途中のルーティが笑う。 「父の日なんですって。お言葉に甘えたら?」 「ちちのひなんだよ、おとーさん!」 「そうかそうか。じゃあ、お願いしようかな。」 わーい!とデュナミス孤児院で子どもの声が合唱する。 剣ではなく包丁を握り、トラップはなく、朽ちて踏み抜いただけの穴。仲間達は屈強な戦士や賢い晶術使いでもなく、無邪気な子ども達。立ちはだかる強大なラスボスは、家計簿の赤字だ。 なんて、平和なんだろう。 未だに子どもが苦手な彼は部屋の隅っこで体育座りしながら、にぎやかなスタンの周りを眺めている。 すると、幼いカイルがふとこちらをじっと見て、こてん、と首を傾げた。 「ねえ、かーさん。おじちゃんのひはないの?」 「・・・!」 「さあ。そんなの、聞いたこともないわねぇ〜」 にやにやといやらしい笑みを浮かべながら、ルーティが言うものだから、彼は思わず歯軋りした。 (こいつ・・・!) しかし幼いカイルには、ルーティの意地悪も彼の些細なプライドも理解できない。 「じゃあ、おじちゃんにはいつ「ありがとう」すればいいの?」 「・・・!」 無邪気で真剣な表情で、完全に手を止めてしまってまで考えている。 座ったままのスタンが柔らかく笑んだ。 一方で、彼は震えていた。 何がって、心が震えていた。 こんな時、何を言えばいい。何て言ったらいい。 思ったことを言えばいいのだろうか。ああ、それだったら、どうしても言っておかなければならないことがある。 「カイル・・・。」 そこに座っている父親とそっくりな、けれども子ども特有のまろやかさをもった顔で、なあに?と無邪気に真摯な表情を見せる。 彼はその子どもの約10年後の姿を知っている。この輝きを失わないまま、この子どもは少年になるのだ。 ・・・否、あの「未来」とは違って、この「過去」にはスタンもいるし、自分だっている。 その些細な事柄が、「未来」を大きく昇華させるのだと、彼は信じて疑わない。 だからこそ。 「いいか。カイル。僕のことは叔父さんと呼ぶなと何度言ったら・・・・ ルーティ!笑うな! ・・・スタン、お前もだ!」 ↑ +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 『幽霊ストーカーの描くユメ』(TOD2) 「おじさん。」 「カイル。僕をおじさんと呼ぶなと何度言えばわかるんだ。」 「でも、母さんが・・・。」 「あの守銭奴の言うことはきくな。」 「しゅせんどってなに?」 「それはお前の母親のことだ。」 「ちょっとあんた!うちの子にヘンなこと吹き込まないでちょうだい!」 「貴様がいつもやっていることだろう!」 彼とルーティは喧嘩することが多い。しかも大抵くだらないことで。 そしてその姿に子ども達は困惑し、その平穏さにスタンが嬉しそうに笑うのだ。 あの騒乱の中ではありえなかった平穏さ。 あの時、まさかこんな未来が訪れるだなんて、彼は全く想像していなかった。 毎日が呆れるくらいに平和で。 そう。この時代にはダイクロフトはなく、また神もいないのだ。 「カイル、遊ぼうぜ!」 「うん、ロニ!」 あのふられマンもまだ少年である。ふられ記録は着々と伸ばしつつあるようだが。 「おじさんも遊ぼうよ。」 「だから、カイル・・・。まあいい。 僕は外は苦手なんだ。お前達で行ってこい。」 「そうなの?どうして?」 「ふ。大人の事情というヤツだ。」 「・・・大人って、タイヘンなんだね。」 カイルは少し、不満な顔をしていたが、すぐに諦めてロニと共に外へ遊びに行った。 「・・・大人、ねえ・・・。」 「やかましい。」 まだ自力で歩けず、母親に負ぶわれていたあの赤子のカイルはあんなに大きくなった。 ・・・おつむの成長は思わしくないようだが、健やかな成長ぶりだ。日々やんちゃに走り回っては、いつか父親のようになるのだと息巻いている。 ・・・一方で、彼はあれから何も変わらず、16歳のままである。 当然だ。 彼はあの時、死んだのだ。16歳という若さで。 そして、意志に反して蘇生させられてからカイルたちと過ごしたあの日々は、今は存在しなかったことになっている。 それでも、死んだ身でなお、肉体のない亡霊の身でなお享受できるこの幸福に、彼は感謝している。 このかけがえない優しさが、ずっと続けばいいと、思っている。 何者にも、妨げられることなく。 「―――!」 かすかに聞こえたその悲鳴、に、スタンもルーティも立ち上がって身構えた。 「カイル、ロニ!」 そして、二人は顔を見合わせて頷きあうと、外へ飛び出していった。 (・・・そんな、馬鹿な。) 英雄と呼ばれ、そして一癖も二癖もある子ども達の親をつとめる二人は、そう滅多なことでは動じないのだ。 そんな二人を立ち上がらせたのは、おぞましい、殺気だ。 (嘘だ、まさか、そんな) 存在しない未来、カイルから聞いた話が、蘇る。 二人が慌てて飛び出して、開いたままの扉。その向こうに見える、青い影。 (バルバトス・・・!) まさか。歴史は変わったのだ。そんなことが、あるはずがない。 しかしその手にはロニが捕まっており、その向こうでカイルがうずくまっている。 そして、刃を向けるスタンとルーティ。 (何故だ?) かつての未来に、カイルは話した。 このとき、父親、スタンが死んだのだと。 だがそれも、歴史が歪められた結果だった。そのかつての歪みは既にない。 (まさか、僕の存在が?) ・・・今の歴史に歪みがあるとすれば、それは彼の存在なのかもしれない。 (いや、今は、そんなことは関係ない。 僕が取るべき行動は、ただ一つ。) 優しさが壊れないように。 温かさが失われないために。 スタンが喪われれば、彼女は泣き、ロニは自分を責め、子ども達は悲しみ、カイルは悲しい嘘に包まれるのだろう。 彼が動く理由は、それだけで十分すぎるほどだ。 捕らわれているロニさえ、なんとかできれば決して彼らがあんなヤツに遅れをとることなどないだろう。 希薄な気配を利用してバルバトスの視界の外、カイルの更に向こう側に回ったとき、カイルが怯えた表情でふっと顔を上げ、彼の姿を見た。 そして、彼の名前を。 「・・・ジューダス。」 「おじさん?」 すぐ間近に、碧い目。 「カイル!?」 「うわぁっ!?びっくりしたっ」 目を開いたと思ったら詰め寄ってきた彼の挙動に、カイルが大げさに驚いてみせる。 そんな驚いたカイルに彼も驚いて、状況が飲み込めないという風にきょろきょろとあたりを見渡す。 「ば、バルバトスは?」 「ばるばとす?」 彼の口から出た名前に、きょとん、と首を傾げるカイルはとぼけている風でもない。 「あんた、立ったまま寝るのやめなさいよね。」 「あはは、リオンでも立ったまま寝たりするんだなー。」 通りすがる夫婦も至って平和なものだ。 「・・・。」 「おじさん?」 「いや・・・。」 (夢、か・・・。) 少し自嘲的に、彼は笑う。 今になってあんな夢を見るなんて。 無自覚に、あの「過去」に未練を持っていたのだろうか。 それとも恐れているのか。この平和が、壊されることを。 だが、改めて思う。もしもこの手で、守れるものがあるのだとしたら。この存在をかけてでも、守ってみせると。 ↑ +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 『刹那』(TOD2) 確かな手応え。其れは案外脆かった。 砕けた破片がきらきらって、輝きながら堕ちていく。 眩しいくらいに俺の顔を照らして。 波紋のような亀裂が走る。 俺はそれに終結を感じる。 淡い蒼白い、滑らかなレンズを蝕む亀裂。光が、力がそこから溢れてこぼれだす。 孵化のようだ、と俺は思った。ここはまさしく神のたまご。 それなら、一体何が生まれるのだろう。俺には、死んでいく者の姿しか見えない。 …リアラ。 レンズのたまごは、それが抱く力に耐えきれなくなったように、弾けるように砕け散った。 まるで爆発するようだった。 その引き金を引いた俺はそれを真っ正面から受けたのだけど、其れは案外優しくて、眩しい光と力の風に目を閉じただけで、あとには暗闇だけ、残っていた。 …リアラが、いない。 暗闇の中は本当に暗闇だけ。 あの淡い、レンズの光に照らされていた時、確かに背中に感じていたリアラの体温。 それはもう、暗闇の中には残っていない。 …リアラが、いない。 ごめんね、リアラ。 痛くなかった? 苦しくなかった? 辛かったよね、ごめん。 ねぇ、俺が君に出会った時、俺は運命を感じたんだ。 あの時はまだ恋なんかじゃなかった。でも、一目見たその時から、俺の中には大きな大きな楔が刺さって、それが強く俺を突き動かしたんだ。それって、運命ってことだよね? …だけど、今はこう思う。 俺たちは、もっと普通に出会えなかったのかな。 俺は英雄じゃなくていいし、君も聖女じゃなくていい。 そんな出会い。 …想像できなくて笑っちゃうけど、それができたなら、俺達は10年経っても20年経っても、変わらずに隣同士で居られると思うんだ。 だけど、もう、リアラはいない。 それが俺と、リアラの決意。 俺たちが、選びとった運命。 光と声が俺を包む。 優しい言葉で、俺の痛みにそっと、触れる。 だけど、それは渡さない。 時を駆けた俺たちの、本当はとても短かった刹那の邂逅。 その証は、神にすら。 触れることは、許さない。 簡易メニューへ↑ talesメニューへ戻る