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『hide and seek』 ティア目線
『いいわけ』 ルーク視点
『逃げる夢』 ルーク視点
『木霊』 ルーク・フォン・ファブレ

帰る






『hide and seek』(TOA)
『隠せ!気付け!』


「…あ…。」
洩れる吐息。無意識の声。
足が動かなくなってしまって(突然鉛のように重くなってしまったのだから仕方ない)、視線はそれに奪われてしまった。
あぁ、これはなんて手強い。
「おーい!ティアー!」
そこに響いた耳馴染んだ声に、体を震わすという失態を犯さずに済んだのは、ひとえに戦士としての経験によるものかもしれなかった。
けれど情けないことに、動揺を押さえきれずに反応が遅れてしまう。
平静に。平静を保たなくてはならないのに。
「どうしたんだ?一体何見て…」
「ち、違うの!」
声の主、ルークが近付いて、硬直したままのティアの目の先を覗き込もうとしたところで、声を取り戻してなんとか絞り出した。
「こ、これは、そう。ちょっと目に付いただけで、べ、別にか…可愛いな、なんて思ってたわけじゃないの。ええと、」
自分でも段々何を言っているのかわからなくなってきて、ティアはひそかに自己嫌悪に陥った。
落ち着け。落ち着け、私。

さて、世の人間は大体二種類に分類することができる。
すなわち、彼女、ティアのささやかな嘘を見抜ける人間と、見抜けない人間である。
ルークは、残念ながら後者だった。
「ふーん、そうなんだ。」
小さく納得しながら、となりでティアが密かに安堵の息を吐くのに気づかず、ティアの視線の先にあったものを眺める。
ティアの口実を反芻しながら。
「でも、可愛いよな。」
そんな言葉がぽろりと出た。
「…」
「…え、あれ、ヘンだった?」
明らかにうろたえてみせたのは、今度はルークの方。
というのは、ティアがまるで信じられないという風に自分を見つめてくるからだ。
一方でティアの方は、ルークの顔を見つめつつ、心ここにあらずである。
なんだろう、この理不尽さ。悔しさは!

…どうして貴方がそれを言っちゃうのよ!




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『いいわけ』(TOA)


ティア。ナタリア。ガイ。ジェイド。アニス。ミュウ。
父上。母上。叔父上。ペール。ラムダス。
ノエル。ローズおばさん。アスター。セシル将軍。マグガヴァン総帥。
ピオニー陛下。ネフリーさん。…ディスト。テオドーロさん。
………………。
………。


俺が消えた後でも生きる人たち。
俺達が命を懸けて守った世界で生きる人たち。


俺達が命を張って、苦しんで哀しんで…悼んで後悔を重ねたのは決して酔狂なんかじゃないんだ。
この星の命を繋ぐため。…いや、そんな大袈裟なものじゃなく、もっと単純な。
自分の大切なものが欠けたりしないために。


だから言える。『ありがとう』って。
未練がないはずはない。だけど、俺を…俺たちを支えてくれた、大切なものをたくさんくれた皆だから、俺は託すことができる。


…もう、隠さなくていいよな?
消えたくない。
また新しく始まるその世界に、俺も居たかった。皆と。
だけど、さよならだ。


…最後に、ひとつだけ。
ティア、俺も…





ありがとう。この星をよろしく。





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『逃げる夢』(TOA)


重い。


叫びと手と、なんだかどろどろしたものが背後から。


やめてくれ。
ごめんなさい。


そんなことを叫びながら俺も必死になって足掻くけど、身体は鉛のようで、もつれるようにしか動かない。
迫る叫びが胸を抉る。
腐った腕が俺を捕らえようと迫る。
何かどろどろしたものが、ひたひたと俺を飲み込まんと這う。


何処で間違ったのか。
一体どうすればよかったのか。
俺の精一杯の懺悔は何処にも届かないで、苦痛と怨恨の叫びが木霊する空間に反響して消える。


「ルーク!」


逃げ続ける俺に、聞き馴染んだ声。
・・・ティアだ。
逃げる俺の退路の方向、両手を広げて、ティアが立っている。
その声は厳しくて、目つきなんか俺を睨むよう。
俺の前に立ちふさがって、いつものように可愛げのない怖い顔をしている。・・・いつものように。


「・・・ティア!」
そうすると、ティアの表情から険が取れて、まっすぐな目で俺を見つめた。
いつものように。
不思議とあんなに重かった体が急に軽くなって、俺は逃げるのをやめてティアの元に駆け出した。


広げられたティアの両腕。
それが俺を抱きとめたか・・・はわからない。
そんな夢を見て目が覚めた朝、当然そんなことを知る由もないティアと顔を合わせるとなんとなく気恥ずかしくて、でも、なんだろう。なんだか嬉しかった。
それだけの話だ。





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『木霊』(TOA)


床も天井もない、夕日色した渦の中で、俺は膝を立てて座っている。背中を凭れさせて。
そこにあるのは壁じゃなくて、俺に近くて俺じゃない、向かい合わせの鏡のような存在だ。
俺達はもう死んで居ない存在だった気がするのに、なんだか計算が合わないような違和感を抱いて、瞬きの度に切り替わる景色なんかを確かめている。
体重を預けあっている背中。
ズシリと重くて、壁のように冷たくはない。だけど温かいとも感じない。
何だろうこれは。これは、一体。


甲高いささやきのような音が俺の周りを巡っている。
その音は俺達の様々な記憶を呼び起こした。これが走馬灯だというなら、もしかして俺はまだ生きていて、(そしてこれから本当に消えてしまうんだろうか。)
流れて回っていく記憶に、俺の知らなかったものが混じる。
反芻して確かめるうち、・・・あまり時間もかからずに気がついた。それは忘れた記憶ですらなく、あいつの記憶なのだと。
それに気付いた時、無意識に吐息が零れた。声になり損ねたヤツだった。


そうやって、俺達はようやく、この期に及んで知ることになった。
俺はあいつの怒りと嘆きを、
あいつは俺の恐怖と哀しみを。


「なあ」
背中合わせのままで、背中越しに声をかける。
名前を呼ぼうと思ってたけど、できなかった。
あいつを定義する言葉が出てこなかった。


あいつは返事もしないで、静かな表情で変化めぐるましいが面白みのない朱色の流れを眺めている。
その静けさはまるで水面のようだけど、それはきっと触れるだけで壊れてしまう。
記憶が溶け合うのを感じながら、俺はようやく声を絞り出す。


「返してくれよ」


それは辛うじて声になった。
その言葉の重さに、俺はどれほど耐えられるだろう。
自分でも泣きたいくらい悲鳴に聞こえるその言葉だけど、水面に波紋を描くことすらなかった。小憎たらしくもあいつは、眉ひとつ動かさない。(何故分かるか?…わからないはずがない)
「返してくれ。それは、俺のだ。」
記憶が混じりあう。一体どこから。
触れ合った背中から?それなら、離れれば、それは起こらないんだろうか。
そんな馬鹿な。
「それは、俺だ。お前じゃない。」
僅かに、あいつの眉間に皺が寄った。わずらわしいとばかりに。
「誰が要るか。」
鼻で笑う。・・・ひどいヤツだ。俺は一生懸命だっていうのに。
「そんなもん、こっちから願い下げだ。
 そっちこそ、とっとと俺の物を返しやがれ。」
好きでこうなったんじゃない。なのにこの言い草。
・・・ああ、俺もか。
何故だか笑いが込み上げる。なんていうんだろう、この感じ。
安心というか安堵というか。
よかったなぁ、って思う。
俺が俺で居たくて「返してくれ」なんて無茶を言う『俺』と、「要らない」と俺を肯定してくれた『俺』。
背中の向こうで呑気に笑ってやがる『俺』を感じながら、『俺』は相変わらず何の面白みもない朱色の渦を流れをぼんやりと見つめる。
この朱色は何かに似ている。
それきりお互いに言葉はなかった。伝えるためにそんな物は必要なかったから。
それ以上に、『俺』が無駄な会話を嫌うから、というのもあったけど。『俺』だって話したいことはいっぱいあったはずけど、でも、いいか。
なんだかもう、満ち足りてしまった。


『俺』の名前は、何だっただろう。
ゆっくりと、思い出す。
大丈夫。
俺が居て、俺が居た。それだけは確か。
だから『俺』は、これからも生きていける。




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