後悔はするかもしれないが、自分が自分である限り、これ以外の選択肢はきっと、ない。



クロードは久しぶりに『外』を走っていた。
人目を避けねばならず、しかし街道から離れすぎれば、野生の獣に出くわす危険性も増す。
『人間』だった頃に比べて、瞬発力や機敏性は秀でているように感じるが、反面でスタミナの消費が激しくなったように思う。この小さな身体ではエネルギーの摂取量も蓄積力もたかが知れているからなのだろうか、それはともかくとして、野生の獣と正攻法で適うわけがないのは自明だった。
相手が運悪く飢えていたら間違いなく捕食されてしまうだろう。
『人間』の素晴らしいところは、その知恵と技術とを以って自分たちの生活の場を整備、管理し、自分たちより余程強い獣たちを遠ざけているところだ。
クロードも、過去は最も安全な場所でその恩恵を受けていたのだが、今現在では大分状況が違う。
今やクロードは、人間でもなければ家畜ですらないのだ。
自分たちより余程強い獣を遠ざけ、管理する人間に『排除すべき対象』として見られたなら、その庇護を受けることはできないし、最悪駆逐でもされようものなら笑い話にもならない。
それでも、クロードは、人目を避けながら、街道沿いを駆けていた。

ポートシェルフを発ってから、一日が経過しようとしていた。





バタバタとカーテンがはためいている。無地のベージュの、味気ないカーテンだった。
壁も床も天井も白い、研究施設という名前のついた建造物であることを踏まえると無難なレイアウトなのだろうが、エデンは例えば水色なんか、清涼感があっていいんじゃないかと最近思っているところだ。
白衣だって色がつくご時勢だ。いっそ研究の邪魔にならない程度に少しずつ施設の模様替えを・・・
「所長。」
「はいはい。聞いてるよ。」
「まだ何も言ってません。」
2、3度瞬きをして、エデンはトリップから帰ってきた。
「やっぱり、いないみたいです。一応、区画外も探してるんですけど。」
「うーん、やっぱりね・・・。」
エデンは相変わらずはためくカーテンを見つめているが、考えているのは模様替えについてではない。
「リチル君は頭がいいからね。多分思ってた以上に。」
「やっぱり、ここから逃げたんですかね・・・?」
開いたままの窓から入る風が、バタバタと大きな音を立てる。ついでに何かの書類が吹き飛ぶ音もそれに重なったが、誰も気に留めない。
「鍵は」
「掛けてたと思うけど、シンプルな構造だから、届けば簡単に開くよ。リチル君、開け方知ってたのかも。
ほら、これを踏み台にしたらリチル君でも届く。」
ポートシェルフの特徴である強い潮風に、エデンの小さな溜息が混じる。
「所長。」
「うん。」
「・・・元気ないですね。」
「うん。」
窓から顔を出して、すぐそこに在る地面を見下ろす。ここは1階だ。
芝生にしたのは間違いだったかな、と考えながら、エデンは曖昧な笑みを浮かべる。
「ちょっとショックだ。」
相槌もなにも返ってこなかったけれど、エデンは言及はしなかった。







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