クロードがキメラになって一週間が過ぎた。
勝手にリチル、などと名づけられて(いやに可愛らしい名前なのが癪に障る。)、血を抜かれたり撫で回されたり、殺してやろうかと渦巻く感情をギリギリのモラルで押さえつけながらも一週間が過ぎた。
とはいえ、そのスケジュールがハードだったのは初日ぐらいなもので、大概の時間、彼はヒマを持て余していた。というか、研究所員が誰も彼もオーバーワークなのだ。
クロードに付きっ切りでいられるような暇人は居そうにない。
彼らの研究は非常に不愉快だが(しかし、その冷静な分析が未だに把握しきれない自身の現状についての情報を与えてくれるのも確かだ。)、クロードにはそれ以外にすることがない。
寝るか、うろうろと歩き回るか。一日が非常に長く感じられる。
こんな時、憎くてたまらない彼ら所員に、ちょっと構って欲しくなるだなんてまさか、そんなこと!(・・・なんにしろ研究はいやだ)

今日も今日とて朝の健康診断を終えて暇になってしまったクロードが恨みがましくエデンを睨みつけながら床の上でふてっていると、見覚えのない数人の白衣集団がぞろぞろと研究所内に入ってきた。
「?」
なんだろう、と体を起こして目で追っていると、エデンもそれに気付いたのか作業の手を止めて顔を上げる。
「所長、只今戻りましたー。」
「あぁ、おかえり!どうだった?いいデータは取れた?」
「なんとかネタにはなりそうです。」
「それはよかった。」
知り合いのようだ。というか、所員のようだ。だがクロードに見覚えはない。
「あれ、所長、なんか新しい顔が増えてますね。」
見覚えのない目がみんなこちらを向いて、クロードはじり、と後ずさる。
エデンは嬉しそうに笑った。
「そう。紹介するよ。キメラのリチル君。リチル君、この人たちはね、今日フィールドワークから帰ってきた私達の研究仲間だよ。」
なかなか頭の良い子だよ、と言われてもあまり嬉しくはない。
「所長、お土産があるんですよ。」
「お、どれどれ?」
お土産、の言葉にぞろぞろと所員が集まってくるのを見てクロードは溜息をついた。
「アマゾナ森名物コックル人形焼だって。ああ、似てる似てる。」
アマゾナ森というのは聞いたことがある。しかし、コックルとは何だろう。そう思って白衣集団を見上げていると、今日帰ってきたらしい顔ぶれの一部がこちらに気付いた。
「リチル君もこれ食べますかね。」
「食べるかな。リチル君、頂いとく?」
そう言うと、エデンがしゃがみこんで手の平を差し出してきた。
気になって覗き込むと、可愛らしい鳥のような形をしたカステラがちょこん、とその血色のいい手に乗っている。
なるほど、この鳥のようなイキモノをコックルと呼ぶんだろう、と納得して、ちょっと好奇心が働いてそれをくわえてみた。
一口で食べるのも厳しいし、手は使えないし床に置くのは言語道断なので自分専用にもらったお皿までそれを運んで半分に噛み砕いて食べていると、研究員の一人が「確かに賢い子ですね」と言うので心の中では当たり前だろうと思いつつちょっと照れくさくなる。
ちょっとパサパサして、甘くはあるがあまり美味しいとも思えない。しかし研究員達はそれを口に運んで楽しそうである。これが庶民の味というヤツなのだろうか。
「そういえば」
所員の一人がぽつりと。
「コックルってアレですよね。ウチに標本がある。」
「ああ。剥製がね。そこに。」
「あ、こんなに近い場所にあったんですか。」
エデンが指差す方向を、ちょっと興味をそそられてクロードも振り返って見てみた。
剥製というヤツは内臓処理なんかをしているだけで、外見は生きているそのままの姿である。
エデンが言うように、あの人形焼の特徴をもった剥製を、クロードはすぐに見つけることが出来た。

・・・あまり可愛くなかった。










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