朝食を終え、エデンは昨日一日使って組み立てた仮説(?)の検証に入ることにした。
早い話が実測である。
体長・体高測定から、血液検査、保菌状態、etc。
「アレルギー検査もしないとね。一応昨日イチゴは食べたんだけど、なにか中毒起こす食品がないかどうか。
 あと、キメラ恒例のパーツ当て大会。今日のノルマはそんな感じかな。」
リチルは記録上に存在しない生物だが、あくまで合成獣(キメラ)であるため、全くの新種よりは生態系を推測しやすい。
それでも、中には相反する習性を持つもの同士が合成されて挙句、どちらとも取れないちぐはぐな行動特性を持つ例もあるが。
ともかく、エデンとマンツーマンだった昨日とは違い、今日は複数人の研究員に囲まれて早朝の元気はどこへやら。リチルは怯んでいるようだった。
採血の時はさすがに暴れるかと思ったが、身をすくませただけだった。
「大人しいですねぇ。」
「今朝はそうでもなかったけどね。」
「それに、所々は汚れてますけど、綺麗な毛並みしてますよ。いいところで育ったんじゃないかなぁ。」
「タグついてなかったけどね。」
「外れただけかも。」
「その割には場馴れしてないように思うんだけど・・・。病院ぽいところがダメなのかな。」
「じゃあ、研究所の出じゃないってことですか?」
「・・・お金持ちのペットとか?
 いや、ペットにするのにこの角は放置できないと思う・・・。危なすぎて。」
「でもそれ以外だったら・・・。」
「まさか二世、なんてことは、ね。ないだろうし。」
基本的にキメラには子どもが生まれない。生殖能力云々ではなく、人工的につぎはぎされたデタラメな遺伝子と適合する配偶者がいないのだ。
「まあ、『前例無し』は、『絶対不可能』か『新発見』かどっちかに行き着くからね。ノートの備考欄には書いておこうかぐらいかな。でもやっぱり獣型は聞いたことがないよなぁ。
 で、この角はいつ生えたと思う?生まれる前?ある程度成長した後?
 卵生だったら面白いなぁ。」
所長がうきうきしています。誰にも止められません。
まあ、いつものことだが。
「でも、私はこっちも気になりますね。」
ある女研究員がそれをつまみ上げて言った。
「翼?」
「これ、あっても飛べないですよね。なんなんでしょう?」
「・・・意味のない器官が満載なのがキメラだよ。好奇心が作った人造物なんてそんなもんだ。」
もしもキメラが進化系に戻ることが出来たなら、そういうの結局退化していくよね、とぼやくエデン。
「でもこれ、鳥の羽ですか?」
「それは、成長不良で完成系に至らなかった類のものだと私は推測する。君は?」
「骨格が見たいです。」
「そのヒント大きすぎ。発想を楽しもうよ。」
楽しくて仕方がなくて、思うままに笑っていると、白いキメラの碧い一対の目が、エデンを見上げているのに気がついた。
大人しくはしているようだがその光は険を帯びて、こちらを監視しているようにも見える。
(本当、どこから来たのかな。)
どこか研究所から逃げ出したのか捨てられたのかそれ以外か。
少なくとも、人間を警戒してはいるようだが恐れている様子もなく、なんとなしに人に馴れているようにも思える。
睨みつける青い目を、じっと見つめ返していると、ふと険が取れて呆けたようになった。
考え事をしながら半ば上の空でなおも見つめ続けると、リチルははっとして気まずそうに顔を背ける。
(あ、今の、なんとなく人間ぽかった。)
角を避けて頭を撫でてやると、嫌そうに身を捩る。
「あんまり懐きませんね・・・。」
「まあ、焦ることもない。そのうち馴れるよ。」
ね。と笑いかけても、リチルは顔を背けたまま、こちらを見ようとしなかった。





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