200年の歴史を持つ王国、ヴィオラの第一王子、クロードは憂いていた。身じろぎひとつなく、瞳を閉じて脳内で思考を展開させていた。


その日、既に太陽は昇っていたが、彼は眠りの中にいた。昨晩夜更かししたのだ。それは別に、いつものことだった。
のろのろと意識が浮上していくのを感じた。まだもっと眠っていたい感じがしたのだが、起きる気はないままゆるゆると登るそれに身を任せてみると、やがてすぐ傍に気配を、人がいるということを感じる。
空の明るさはわかっているので、誰かが起こしに来たのだろうかと思った。
頑として起きないことを決めて、半覚醒のままその気配を探ってみる。
気配は、身じろぎ一つしないが、それを入れても妙に希薄で、もしかして気のせいなのだろうかと考えがよぎる。
もしくは、これも夢なのかもしれないと。
再び深い眠りに降りようとする。しかし、意識の何処かが引っかかるように、その気配を追い続けている。

「聞こえているのでしょう。」

声が降りた。それは優しい音色で、甘い色で、底知れない冷たさを孕んでいた。
彼はそこでハッとして飛び起き、声の主を探すように視線を走らせる。
しかし何も見出せないまま、視界に映ったものを把握しきれないまま彼は何かがはじけるのを感じた。



暗転と白蝕を経て目覚めた。怒涛の量の不可知な情報に思考が飲まれて幾許かの時間自失していたのだ。
異変を感じたのはすぐ。
静謐は彼が一人だということを教えた。誰もいない。・・・誰も。
情報の整理が追いつかないまま、彼は自分の身の無事を確かめるために己の胸に、手を。
・・・手を。
「・・・・!?」
そこ、だった。
異変を感じたのは其処だった。警告が警鐘が神経を辿って脳髄に届く。全身へ拡散する。
体が鳴いた。答えを求めて。思考は停止したまま、何も導き出せずにいる。
そのとき、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
どこからだろう。・・・遠くから。
その声、誰のものか記憶していない声に言い知れない嫌悪を感じて彼は駆け出す。逃げるために。駆け出そうとした。
しかし、もつれて無様に顔を床に打ち付けてしまう。
・・・体が言うことを聞かない!
近づいてくる気配に、焦燥と嫌悪が募る。
嫌悪・・・?否、これは恐怖だ!

思えば、視線の高さからして妙だったのだ。でもそんなこと、いくらでも理由付けられた。だから、だから否定していたかったのに。

不自由な体を叱咤して、まるで這うように。あるべき場所からほうほうの体で逃げ出したのは、小さな、一匹のケモノだった。


200年の歴史を持つ王国、ヴィオラの第一王子、クロードは憂いていた。身じろぎひとつなく、瞳を閉じて脳内で思考を展開させていた。
現実を否定する方法を、考えていた。
多分きっと、疲れていたのだ。夢のつづきか、それでなければ性質の悪い幻か。・・・ああ、今まで心身ともに自分の健常を疑ったことなんてなかったのに!
落ち着いて、深呼吸して、目を開けば夢も幻も霧散する。いつも通りが帰ってくる。
そう言い聞かせながら、閉じた目を開くことが・・・出来ない。 今一度目蓋の裏に蘇るのは、醜悪な自分の・・・姿。
乳白色の体毛に覆われた腕(しかし形状は脚の其れだ)。指は四本しかない(見える範囲では)。太くて厚い爪。
おおよそ人間とは程遠い!
10年程前王宮に迷い込んだ子犬の方がよっぽどマシな・・・否、なんてモノと比較しているのだ。

約20分間の葛藤の後、彼はうっすらと目を開けた。大いなる期待と失望と共に。










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