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扉は静かに叩かれた。 休日というものはいいもので、24時間をほぼ、自分の思ったとおりに過ごせる。 この日シードルも少しのんびりめに朝食を取って、のんびりまったりと午前中を過ごす。 そこへ、扉は叩かれた。 シードルの家は広く、そのほとんどのスペースを物品が埋めている。 その音は、シードルには届かなかった。 扉は静かに叩かれた。 しかし、段々静かとはいえなくなる。 そして、終いには。 「シードル=レインボウ!!そこにいるのは分かっている!!」 その大きな声が、ご近所迷惑となることになった。 近所の迷惑はシードルの迷惑だ。 「・・・誰ですか・・・・。」 少し、不機嫌に扉を開けると、そこに、真っ黒い外套を羽織った少女が、満面の笑みで立っていた。 「・・・・えっと・・・・君は、何でここにいるのかな?」 少女は当然のように答える。 「だってほら、夏休みでしょ?バイトする絶好のチャンスといいますか」 「・・・そうだね。夏休みだ。夏休みって言うことは、どういうことか、分かる?」 「と、言いますと。」 「夏休みは、つまり、夏の休みってことだね?」 「言わずもがなってやつね。」 「そうだね。それなのに、君は着るものを間違えてないかな?」 「そうなの!!そこ!!問題はそこなの!!なんでアナタそう回りくどい言い方をするかな!?こんな顔してるけど、私実は今ものすっごい修羅場を体験してるのよ!! お願いだから、早く中に入れて・・・ッ!!」 「・・・・。」 「・・・意地悪しないでよ・・・。何のために私、ご近所中に響き渡るような大声であなたを呼んだと思ってるの?」 少女の顔が、どっと疲れた風になる。これはさすがに可哀想だった。 けれどシードルはその前に、どうしても一つだけ、教えてあげたいことがあった。 扉から少し、身を乗り出して、す、と扉の横の壁を指差す。 「その時のために、呼び鈴がついてるんだよ。」 「・・・・。」 非常に緩慢な動作で、少女はその指差す先を見た。 そして、手を伸ばしてふらふらとその方向へ・・・ 「いいよ!!分かってくれたらいいから!早く入って!!」 シードルは慌てて少女を中へ引っ張り込んだ。 「はふー・・・。」 外套を脱ぎ捨て、アイスティーをしみじみと飲んでいる少女の顔は、まさに至福、という感じで。 実は今飲んでいるそれは2杯目で、1杯目は一気飲みの勢いで飲み干してしまっていることは、シードルは忘れることにした。 「・・・で、君、誰だっけ。」 「なんですとー!?」 即座に帰ってきたツッコミ。テンションが絶好調だ。 「忘れたの!?あのインパクトありすぎのあたし達の出会いを!!」 「君という存在にインパクトがありすぎると思うけど・・・。 忘れてはないよ。確か自称通りすがりの泥棒でしょ? そうじゃなくて、名前。思い出せなくてさ。」 「名前?それは・・・言ってなかったんじゃなかったかな? 言った記憶ないもん。」 「そうか。そうかもしれないね。それじゃあ、僕だけ名前が知れてるのも癪だし、 名前、教えてくれる?」 「・・・知りたい?」 少女は、妙に楽しそうに、妙に嬉しそうに笑っている 「教えて欲しい??」 ・・・そんなにも、優位に立ちたいのか。少女の顔には悪意さえうかがえる。 シードルは妥協するか、否か悩んだ。 「最悪、僕は君を少女Aとでも呼ぶけど、君は」 「あぁっ!ごめんなさい!私はシグマと言います!お願いだからそっちで呼んで!!」 「わかった。それで、シグマちゃん、僕に何か用?」 「・・・・。」 シグマはがっくりとうなだれた。必要以上のオーバーアクションで。 その前に飲みかけのアイスティーのグラスをきちんとコースターの上においているあたりが律儀な感じだ。 (この子、面白い) シードルはある種のトキメキを感じている。 「あ、あなたが・・・・。」 シグマは、めげなかった。 「あなたが提案したのにッ・・・自分で提案したのにッッ!!」 「ごめん、冗談だよ。遊びすぎちゃったみたいだ。」 「鬼!!」 「うん。ごめんね。」 「・・・・。」 ぶーたれたような顔で、シグマは恨めしそうにシードルを見ていたが、 再びアイスティーを手に取る頃にはすっかり元に戻っていた。 「要するに、夏休みのバイトとしてモデル料を貰いにはるばる来たとゆーコトよ。」 「それはご苦労様。でもさ、なんでこの暑いのに外套なんて着てくるのさ?」 しかも、真っ黒な、と、シードルはシグマの脱ぎ捨てた外套を見やる。 色からして、生地からして、相当暖かそうな代物だが。 シグマも同じようにそれを見て、面倒くさそうにため息をつく。 「言いつけ。」 「言いつけ?」 「外に出るときは、目立たないように着てなさいって、言われたの。」 「季節によってはかえって目立つけど・・・どうして?何の為に?誰に言われたの?」 矢継ぎ早で、答えづらいとは分かっていたけれど、シードルは訊ねた。 シグマは一口、アイスティーを飲んで、一息つく。 「おとーさん。」 「・・・・。」 「ラザニア=バロックって知ってる?」 「知ってるよ。結構名の知れた画家だね。」 「それが私のおとーさん。」 実際その人の顔を浮かべながら、シードルは納得しかけたが、思いとどまる。 「・・・結婚してたっけ?その人」 「してないよ?」 シグマは人差し指を唇に当てて、悪戯っぽく微笑んだ。 「内緒の子。」 シードルは、言葉を失った。 「バレたらまずいの。」 「・・・・。」 「内緒の生活も飽きたので、あたしは早く自立したいのです。おわかりかな?」 「・・・そういえば、君さ。初めて会ったときは、着てなかったよ」 「人目につかない場所にいるときは、着ないの。暑いし。」 確か、初め彼女は木の上にいた。 「そこで私はシードル=レインボウというカモを見つけたってワケ。」 「・・・カモ?」 「重そうな荷物を持ったオジョウサンだと思ってたのよ。最初は。でも、よーく見たら、知ってる顔だったの。」 「カモ・・・・」 「ねえ、シードルのアトリエって、どこ??」 どう突っ込もうか、考えあぐねているシードルを、シグマは覗き込む。 シードルは考えるのを諦めた 「・・・奥だよ」 「じゃあさ、早く行こーよ。折角あたし、やる気満々なんだからさッ!」 「・・・?妙に嬉しそうだね?」 グラスのアイスティーを綺麗に飲み干したところで、シグマは立ち上がって、シードルもそれに倣った。 先導するカタチでシグマの前を歩く廊下で 「ねぇ、ここの絵、シードルが全部描いてるの?」 シグマは落ち着かない感じで壁にかけられた様々な絵画をあれこれと見回している。 「・・・違うよ。僕の絵は、この家ではそんな風に飾らないんだ。」 「じゃあ、誰の絵?」 「いろいろさ。 盗らないでよ?泥棒さん」 からかう様に、シードルは笑う。シグマはそれにふて腐れたような表情を返したが、間も無くすぐに上の空になる。 そんなシグマの反応をつまらなく感じてか、シードルはすぐに視線をそらした。 そして。 「ここ?」 「そう。散らかってるから、足元に気をつけてね」 「・・・・」 そこは、なんというか、さほど広くもない部屋に大雑把に物が積んであったり、並べられたりしていて、 この部屋に至るまでのこの屋敷、についての印象とまるで違っていて、 そこだけ、空間が隔絶されているような幻想めいた錯覚すら覚える。 「ちょっと待ってて・・・。少し、スペースを空けなきゃ」 「あたしも手伝うけど?」 「いいよ。・・・あぁでも、どうせだからそこの棚に積んであるスケッチブック、 引っ張り出しておいてくれるかな」 「わかったー。 ・・・・って、多すぎだよ!!重いし!」 「一番新しそうなのでいいよ」 「・・・どれ?」 「中を開いてみて、あまり描いてないのじゃないかな?」 「なるほど。」 言われたとおりに、シグマはスケッチブックを、一番上に積んであるものから手に取った。 そして、ぱらぱらとページをめくってみる。 「・・・・。」 緻密な線で、細部にわたって描きこまれた物や、明らかに未完で、上から大きくバツをつけられた物、いろいろある。 「・・・・・。」 一本の鉛筆と、腕と、眼と、思考がかたどるリアリティ。 ふと視線を上げると、それの持ち主の顔がまさに目前、に在った。 「ッ!!!!」 「作業が遅いね。そこまでじっくり見なくてもいいよ。」 シグマは、焦る 「あっとこれは、何といいますかええとつまり、『これは何の絵でしょう』みたいなクイズを展開してまして何というかその」 「? 言ってることがよく分からないけど・・・」 どうやらシードルの作業の方はもう終わっているらしい。二冊目のスケッチブックを手に取る。 「ともかくこれはたくさん描いてあるよッ」 「そう・・・。あぁ、これはまだほとんど空いてるね。これにしよう。」 それから、他のスケッチブックを片付けた。 そして、机の上の鉛筆立てから、一番芯の長い鉛筆を取って、スケッチブックの余白をぼんやりとめくっている。 不意に、シードルは、思い出したように顔を上げた 「そういえば・・・君のお父さんも出席する展示会が、あるんだけどさ。」 「?」 シグマは、小首を傾げて続きを待つ。 「それに君の絵を出したら・・・どうなるかな?」 シードルは、意地悪い顔で微笑んだ。シグマは一瞬、きょとんとした表情を見せ、 それから、無邪気に笑う。 「面白いことに、なるかもね。」 悪戯を企む子どものような顔で、シグマはシードルを見た。 そんな笑顔と表情を見て、シードルは ああ、この子は強いな そう思う。 まだ大人になれなくて、隠されて従うしかない弱い私たちが ベールを脱いで姿を晒して さあ大人達に何て言おうか? 小さくて些細でそれでも強力な 傲慢揺さぶる僕らの反抗 +添え言+ お題にしては長くなりました。 シグマちゃんの設定が現在進行形で決定中だというのがバレてます。 お題のクセにメインと繋がってしまったのでメインにも載せます。 これからまだ続きがあって、シー主モノ(主シーかも)に発展していくわけですが よーく考えたらシグマって、主人公なんですか?(聞くな) お題メニューへ/マジバケ文章メニューへ |
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