「シードル!!」

背後の板一枚越しに聞こえるのはあまりにも聞き慣れた声と繰り返される鈍い音。

そんなに叩かないでよ壊れるじゃないか

それほどに脆い扉ではないことは知りながらも心の中で毒づく。

右の手の中には黒曜石が数個

揉むような仕草で、擦れあう度に無機質な音がする。

黒い石。

真っ黒な石。

光を捕らえて離さない。

そしてそれが故に輝けない。

それなのに、この石はあまりに美しい。

「いい加減にしろよ!!」

怒声にも動じず。窓からは新円の月が覗く。

明かりの無い部屋。月の光が眩しくて。

疲れたように、頭を扉にあずける。

扉を叩くその振動が、より鮮明に感じられた。

(僕は)

「知ってるんだからね!!」

低い声で、響かせるように叫んだ。それは、カシスのそれよりも深い、深い怒りを孕む。

不意に振動が止む

拳を強く握り締め、左手にある感触を確かめた。

二人分の鼓動と、二人分の呼吸と、幾個の黒曜石だけが、小さな、小さな音を立てる。

「・・・・。」

月の光を、直視する。

二本の指でひとつ、一番大きな石を摘まんで、手を開いた。

板張りの床に、落ちてゆく漆黒の石。

一つ残った大きな石。月の光に掲げて。

光を殺せと重ねてみる。

「・・・・シードル」

困りきった、弱りきった、彼の哀願

「頼む。・・・行かせてくれ。」

行かせない。

さらに強める、左手の力。

こんなもの、無くなってしまえばいいと。

「僕を殺して行けば?」

軽い冗談を言うような口調で。

笑わない表情で。

おさまらない怒りを残して。



行かせない。

僕にはもう、待つことはできない。

帰るかどうかも、わからない君を。



君は僕のトラウマを知らない。

知るはずもない。

教えていないのだから。

無知とは唯それだけで残酷。

それ故に君はあまりにも残酷だ。



ちっぽけな漆黒色の歪な石を、月の光が包み込む。

似ていると気づいて息を呑む。

どうしようもなく、哀しくなった。





君を守ることの



・・・何が悪いの?











+添え言+

これじゃあ心の闇じゃなくて黒い心だ!!(滝汗)
一応本編前の設定。カシス無事で済んだみたい。





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