吐息が白く濁って消えた。
目の前には白い体が横たわっている。それは僕がずっと探し続けていたもので、それがもたらすのは終焉だった。
何が終わるのか、といえば、僕の中の何か。
言い換えれば、事件に決着がつくようなものだ。僕は決して忘れない。忘れやしないけど、もう書き換えようのない事実だとして、僕の過去の中に積み重ねられるということ。
僕の中で往生際悪く続いてきたものが、終わるのだ。
僕の心情としては、ずっと抗ってしがみついてきたところを、蹴落とされるようなものだ。底まで。
それはもう、痛くて痛くて仕方がないけれどその代わり恐怖は無い。これ以上落ちる場所なんて無いからだ。
僕は指先で白い体に触れた。
それが冷たいのはわかっていた。
後ろを振り返ると、闇の向こうに光が差しているのが見える。僕が居た場所だ。白い体を見つけて、僕はあそこから走ってきた。
「もう行かなきゃ」
光はゆっくり遠ざかっていくけれど、見失うことはない。走ればすぐに追いつける。
別れを告げた。僕自身に言い聞かせるように。
白い体は目を開いて、僕を見る。
「行ってくるね、ママ。」
僕はやっと、その人にその声をかけることができた。

そして僕は帰る。



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その後姿は遠い。あと2,3歩、踏み出して手を伸ばせば届くというのに。
無造作に横たわる肉体と、ぶちまけられた赤。
それを背にして、佇む姿。
その先は、ダメだ。
そう思って、言葉を探した。
こちらを振り返ってもらうための言葉。もう取り返しはつかないけれど、まだ手遅れでない部分があることを信じて。
それなのに、そうやって言葉を探す間に、その人が先に口を開いた。
彼女の周りで生きているのは俺だけだ。それは俺に向けられた言葉。
彼女の言うことは。
間違っている。とんでもない思い違いで、偏見に満ちていて。
それでも。
それでも・・・・
間違っていない。事実で、間違っているのに、現実だ。
(それでもやっぱり、違うんだ、姉さん)
それを言ってやることが、できなかった。この期に及んで、恐れたのだ。
自分にも信じているものがあって、でもそれは姉の言とは異なるものだ。それを、否定されることが。間違っているのは俺の方だと説き伏せられることが。
怖かった。
その躊躇が姉を止めることなどできようはずもなく、屍を背に歩き出す姉を、せめて、見失わぬように後を追うことしか。
後を、追うことしか。

・・・ああ、踏み外したこの道を、俺は帰ることができるのだろうか。



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とろとろと流れる赤に口をつけて、見上げた空は青かった。
ここにお節介なあいつらでも居れば、治癒魔法をかけるかカエルグミを渡すか何かしただろうが、今そんなことは起こらない。俺一人だから当たり前だ。
この程度の怪我は怪我のうちに入りやしない。ああ、鉄の味がする。
ふ、とデジャヴを覚えた。原因はすぐに思い当たる。大方、状況が城下町に居たあのころと似通っているんだろう。血の味なんて変わりやしないのだし。
苦笑ったとき、誰かが俺のところへ駆け寄ってきた。
・・・・はて。これは誰だろう。顔に見覚えはあるが名前は出てこない。
何が面白いのか興奮した様子で俺に何か語りかけているようだが、その言葉は一向に俺の中に入ってこない。
ひとしきり喋り倒した後で、きょとんとした表情で俺を見てくる。
カシス、行かないのか?
「いかねえよ。」
そういうのはやめたんだ。
俺はもう、あんたらを見下してるんだぜ?楽しいことはもっと他にある。
未だ気付けないお前達を。俺だって・・・まだまだ、途中だが。
その証拠に今一人でへたり込んでいる。情けないことに。一人で居ることを選んだのは気が楽だからだが、どこかで何かが足りない気もしてる・・・・なんなんだ、俺は。
「俺には俺の行くところがあるんだよ。」
空は青い。いつの間にか俺はまた一人になっていて、傷はただの赤い線になっていた。
立ち止まる理由はなくなった。

ようやく先へ進めることに、俺は安堵する。







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