アクシデントは一見何の前触れもなく起こるように思われる。

ただし、そう感じるのはあくまで人間であって、人間の知覚できない状態で「それ」の準備が着々と進んでいたのかもしれない。

奇跡も偶然も確率だ。1と0、真と偽の絶妙な切り替わりで人はそれを幸運と呼び、不運と呼ぶ。

過去、既に起こった事象に関して言うならば、1と0の間にある隔たりは大きく、総じて確率は、

その確実性は100%をはじき出す。

歴史に「もしも」が存在しないのはその為で、不可逆的な『時間』というものの性質を考えれば明らかだ。

・・・つまり、コヴォマカ王国・・・いや、物質プレーン・・・むしろ、この世界で過去を含めてただ一人に、それが起こった。世界が生まれてから命というものがどれだけ生まれただろう。

詳しいことはわからないが、それは途方もない。天文学的な数字だといえば大袈裟な感もするがそれだけは確実だ。それを分母にして分子はただの1。

限りなく、それは0に近い。

・・・つまり、つまり。

これをまさに不運と呼ぶのだろうとシードルは思った。

目の前には不完全な格好のマジックドールが転がっている。

ボディは最高品質のユーレロシェル。先程勝手に動き出して好き勝手喋っていたアレだ。

悪夢を見ている心地でそれを見やる。

シードルだって人間だ。まだまだ未熟な人間だ。動揺だってするし、逃避だってする。

そして、若さゆえの好奇心も健在だ。

先程のことはタチの悪い幻ではないかと考える。そうかもしれないし、そうではないかもしれない。

幻だったらいいと思うのだが、幻だったら幻だったで「自分、大丈夫かよ」みたいなことになる。現実だったとしたらマジックドールのせいにできるのだが、それはそれでおぞましい。

どっちに転んでも喜べない苦しい状況。

あるいはどっちにも転ばない、事実を明らかにせずになし崩しにしてしまうという手段もあるが、哀しいかな、好奇心がそれを許さなかった。

というわけで、シードルは一度外したパーツを、また嵌めてしまう。

「・・・・。」

見守っているとドールは静かに動き出す。ちなみにシードルは入魂を行っていないし、行動の指示も出していない。

「・・・・・。」

マジックドールの光のない目がシードルを捉える。

「・・・・お前は・・・」

喋った。絶望的だ。

「もしや私のお母さ」



がっしゃぁぁぁぁん!!



いっそ破壊音と表現するのが正しいようなけたたましい音が、静かなる空間を打った。

それを一身に受けてもシードルは一切の驚きをみせない。

むしろ、その音がしっくりくるような、それに相応しい表情をしている。

一方で、シードルの張り手によって宙を飛び、壁に体を叩きつけることになった件のマジックドールは、なんでもないようにその体を起こし、鬼気迫るシードルの表情を見つめる。

振り下ろされたそのままの形を保つその掌、痛そうだなどと考えながら。

「僕のどこが君のお母さんだって言うの!?冗談じゃない!」

「駄目か。」

「駄目に決まってる!」

「だが私を召喚し肉体を与えたのはお前だ。これをお母さんと呼ばずに何と」

「・・・何?そういう論理?」

幾分かシードルは冷静さを取り戻す。

・・・が、それと同時に気づいてしまった。

(このわけのわからない生き物と普通に会話している!!)

それはできれば目を背けていたい事実だった。

まるで現実から逃避するように項垂れて凹みにはいったシードルに、マジックドールはてこてこと歩み寄る。

「そうか・・・・。そうだな。母親というものは、こういう・・・・」

誰に聞かすでもなく、ただ内在するものが不意に零れ出たようにして呟いている。

シードルは静かに顔を上げた。それの言葉に、マジックドールが本来持つ機械音ではない、どういう仕組みで発せられているものか皆目見当がつかないその声に、憧憬・・・のようなものを感じたからだ。

かちり、と視線が合った。

そしてその瞬間に、あろうことか、何を思ったかそのマジックドールはくるりと踵を返しそれはもう素晴らしいスピィドで猛ダッシュをかましたのだった!!

「えっ!?ちょっ、まっ」

「母よ私は行ってくる!!」

ワケも理屈もわからない、何故か嬉々とした調子を孕んだ宣言と共に!

教室と廊下を隔てる引き戸を開け放ち、あっという間にそれは見えなくなってしまった。



・・・・マズいと思う。



本来ならありえない所作をするマジックドール。動作命令もなく動き出し、聞きなれぬ声で話し、

あまつさえ世界が支配がどうのこうのとぶっ飛んだ発言をしていたマジックドール。





このまま放置してもいいのか!?



(いくらなんでもやっぱりそれはマズいって!!)

一瞬体が抵抗を示し、それに(まあ、そうだろうな)と他人事のように同情しながら、何とかそれを振り切ってシードルもソレを追跡すべく駆け出した。









・・・これってやっぱり僕が悪いんだろうか・・・・・









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・ちょっとひとこと・

私の確率論は真に受けないでください(汗)
続きができるかもしれないので期待せずに待っていただけると嬉しいです。


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