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時刻は午前10:00。
タイムスケジュールの空いた時間。テーブルの上、ハードカバーの書が山になっている。
レポートの提出期限が迫っているのである。
シルバーのしおりを辿りながら、指先でペンがくるりと回る。紙の余白が埋まってはくれないだろうか。魔法みたいに!
甘い妄想は掃いて捨てて、再三再四、回りくどい文脈を追う。噛み砕いてくれているのだろう。だが未だ噛みようが足りないらしい。消化にはまだ時間が必要なようだ。
「カシス、生きてる?」
思考に飽きたところで、先程から視界の端でそれとなく集中力を削いでくれていた銀色に声をかけてみる。その銀色は、ページに挟まった薄っぺらいそれよりも白味が強くて艶やかでもなくて、柔らかな生きている色をしている。
それがレポート用紙で紙飛行機を折ったりそれを飛ばす素振りをしたり(実際に飛ばしたりはしない。後片付けが容易でないからだ。)、それならば日常茶飯事と気にとめたりはしないが、如何せん。
今日は完全に突っ伏してしまっているのだ。寝ているわけではない。伏せているなりにも僅かにある動作は、眠っているそれではない。
遅刻できない都合のあるさっきの授業でやけに慌しく登校してきたが、それに関係しているのだろうか。
手を(目で追うことを)止めたシードルの動きに合わせて、ペンを走らせていたジュリアも顔を上げる。
ジュリアのレポートの進行具合は、シードルやカシスのそれと比べて随分と良好なようだが、そのからくりは至って単純で、単に担当設問の難易度の差だ。
他要素を排除して純粋な難易度で比べるならば、それぞれの担当の設問は カシス>シードル>ジュリア なのだった。
そしてそれぞれに明確な学力差があるわけではないので(少なくとも、この科目に関しては。)、必然、それはそのまま各個の気苦労の比となる。
生徒の課題の割り振りは、完全に先生方の気まぐれによって決められる。多分この時以上に、自分の姓名が運命を左右する場面などないだろう。
シードルのその気遣いは、友人の不振への心配と、それから同情も含まれている。明日は我が身なのである。
それにしても、呼びかけに対して、直接は関係のないジュリアが反応したのに当の本人は音沙汰ない。実は寝ているのだろうか。
「カシスー?」
「・・・んん?」
生きていた。
のそり、と持ち上がった目は心なしか精彩に欠けていて、その原因がレポートの進捗によるものなら余程のことなのだろう。
「大丈夫?間に合いそう?」
案じているシードルの傍ら、ジュリアは静かに思案していた。果たして、この友人はレポートの出来程度でここまで憔悴するような人間だっただろうか、と。
「あー。いや、俺朝飯食ってねぇんだよ。」
テーブルに頬を摺り寄せて、カシスが口を開くと話題は180度転換した。
伏せっている所為で一向に白いままのレポート用紙は、全くさっぱり問題ではなかったらしい。やれやれと首をひねってジュリアが時計を確認すると、時刻は大体午前10時過ぎ。朝食には遅く、昼食には早い微妙な時間帯である。
「しかも財布忘れてきたー。もーだめだー。」
「それで死んでたのか。レポートはスルーか。」
「頭まわんねぇ・・・。」
レポートの難度を考えれば、確かに栄養不足のコンディション絶不調!な脳が太刀打ちできないことは明らかだ。しかし、提出期限までの時間を計算すると、今の時間に進めておかないと間に合いそうにない。提出先も完全回答を前提にしているわけではないので、なんとなく紙面を埋めてなあなあで終わらせても問題はないのだが、流石に白紙のままでは提出するべきでないだろう。
かといって、自分が早く終わりそうだからと代わりに解いてやるような甘ったるい優しさはジュリアは備えていない。それでも、他人は他人と、丸投げ放置してしまえるような仲でもなかった。
「よし。昨日買った食玩のおまけの飴をくれてやろう。」
鞄からひょいと取り出した赤色の飴をカシスに投げて寄越す。それを受け取ると、カシスは言葉になっていない唸り声のような感謝をしていそいそと口に含んだ。
「食玩のおまけなの?おまけが食玩なの?」
「お前・・・。ここで議論する気かよ。これは意外と深いぜ。一日が終わっちまう。」
「いやいやいや。」
「ていうかよく考えてみろよ。お菓子が食べたくて食玩を買うか?
『あー、飴が食べたい。なんかちょっと要らんもんついててちょっと高いけど飴が食べたいからこれ買うか。』
ってなるか?お値段据え置きならともかく、割高だぜ?ボッタだぜ?わざわざ買うか?」
「そうなのかなぁ。」
「お前、そもそも食玩買わないだろ。」
「・・・確かに・・・。
って、議論終わっちゃったけど。」
「それはお前が流してるからだろ。」
完全に話がそれているシードルとジュリアの向こうで、カシスは再び伏せってもごもごしている。
明らかな温度差がそこに発生していた。
「・・・・。」
「・・・。」
「・・。」
時計を見る。それほど時間が経過しているはずもなく、のろのろと瞬いているだけ。まあ、いつもの通りなのだが。下手に加速されても、レポートの都合上、困るわけではあるし。
ジュリアはレポート用紙の紙面に視線を滑らせた。その時々の集中力が字面になって現れている。
・・・計算間違いを発見した。
シードルはあらぬ方向を見ている。視線の先にレポートのヒントがあるはずもない。・・・表情と経験から察するに、多分今はどうでもいいことを考えている。カシスに至っては、進むどころか開いているページが設問に関連したそれなのかすら怪しい。
まずい。
この空気はよくない。
「カシス。」
白紙なのは頑張ってくれとしか言いようがない。カシスが担当する設問と同じ解法なのだろうと思われる例題が費やしたノートのページ数を思うと先の遠さに眩暈すら覚えるが、やはりそれも明日は我が身というか、どうせ誰もが通る道。試験が近くなれば解くのだから、カシスはそれに先んじているだけだ。時間がない試験前に一から解くのと思い出しながら解きなおすのとでは苦労がまるで違う。時間も大分違う!
ということがわかっている身としてはここは乗り切って欲しいところなので、ジュリアは鞄を漁った。
「おにぎり食うか?」
のそり、とカシスが面を上げた。
「え、くれんの?」
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・ひとりごと・
多分数学系のレポート。(物理もアリか)
マジバケのキャラクターは学生設定ですが、学生生活について本編でノータッチなので取り敢えず大学モデルで捏造してます。
パソコンがない時代のレポートってこんな感じだろうか。
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