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ざくり。 痛みを、なんでもないような顔で、じっと耐える。 それでも、無感情を努めたその表情に苦痛の色が浮かんだ。 じりじりと、歩み寄ってくるものだから、同じように後退するしか方法が無い。 本心では動きたくなかったのだけれど、些細な動きが傷に響くのだけれど、 ぱたりぱたりと、断ち切れた布を飽和状態にしてなお溢れる行き場の無い真紅の雫で床を濡らしながら、決してその間合いに入ることの無いように・・・・ 否、その間合いから抜け出るようにゆっくりと後ずさる。 埋まらない距離。 離れない距離。 ああ、その距離が、近づくことはあっても遠のくことはないのだと、 ちらりと目線だけで振り返って思う。 間もなく壁につきあたった。 壁に背を預ける。 踵で軽く叩いてみた。 申し分なく頑丈そうな壁だ。忌々しいといったらない。 朱の跡を辿るようにしてゆっくりと距離を縮めるその影がうっすらと隠しきれない笑みを浮かべているのを、せめて睨みつける。 もし視線で人が殺せるなら、この瞬間にそいつは死んでいる、と思った。 視線にそれだけの殺意を込めた。 大声を出せば助けは来るかもしれない。 そう、ちらりと頭をかすめはしたが、場合によっては、それに間に合わず殺されることも十分考えられる。 むしろその可能性の方が高い。 ぱたりぱたりと滴る音と、ゆっくりと近づく靴音と、ここからは見えない位置にある古い柱時計の刻む音が、絡み合ってもつれて、不協和音さながらにうざったい。 どれか一つでも止めばいいのにと思う。 ただこの場合、時計の方が止まったのでは意味がないけれど。 止まったのは靴音だった。 それ以上、歩み寄る必要がなくなった為だ。 息のかかる距離で見下ろされて、ひどく気分が悪い。痛覚から、視覚から二重の苦痛を受けて、どこともなくずきりと鈍く痛む。狂気により滲む笑みと瞳の奥で強く根付く殺意。 人間がこういう表情もできるのか、と初めて目の当たりにして絶望した。 少しでも、距離をあけたくて頭をもたれさせた。頭蓋と壁が硬質な小さい音を立て、焦る鼓動が余計なリズムを加える。 血塗れることを躊躇わぬ指が首筋に伸びるのを、無抵抗に見ている。 品定めするようにその指先が静脈を辿るのを、皮膚が粟立つのを感じながら、足元をちらりと見ると、小さな血溜まりが出来ていて、滴り続ける新たな雫によって未だ体積を増している。 口を開いた。 言葉を吐く為だ。 そして笑ってやる。 にわかに狂気の笑みは消え、いぶかしげな表情へと変わる。 言葉の内容はなんでも良かった。 思考を中断できたのなら上等だ。 落下する血液の衝撃で小さく波紋を刻み続けていた血溜まりが、それ以外の何かによってふるりと揺れる。 それから先の刹那のことは、まばたきもなく見届けて刻み込んでやった。 今目の前に在る木のようなそれ。その先端は天井を押し上げている。 よく見ればそれは木ではなく、ひしめき合うように密集した植物の蔓であることがわかる。 その蔓一本一本には青々とした棘がついていて、その根元は毒々しい赤。しかしそれはそれが本来持つ、内包している色であり、鮮やかで瑞々しい。 通常は、植物がさながら意思を持ったように人間を絡め取り、なおかつそれがコップ一杯にも満たない真紅の液体より出でたということは信じがたいことのようだけれども、この目でそれを見、あまつさえ自らそれを仕向けたのだから疑いようもない。 自分の成し遂げたことに恍惚を覚えなくもなかったが、しかし今はまだ純粋に喜べる段階ではない。 めまいがして壁に完全に体重を預ける。いい加減に血の止まらない体が小さく震える。 それから一息、二息ついてのろのろと歩き出した。 助けを呼ばないといけない。 なけなしの魔力が尽きる前に。 戻る ・独り言・ 何かの話に組み込もうと思って止めたブツ。こっ恥ずかしいから・・・。 信じてもらえなくてもシードルなんですよ(汗) 臨海学校前。 要するに、魔法レベル2以下ですね。レッドローズしか使えない段階。 相手は決まってません。別にそれがカシスだろうが構わないんですが ・・・二人の間に何があったの(笑) こんな風に、魔法の描写がしたかったわけですが、 この話の根底には「魔力は血液の流れによって全身を廻る」というオリジ設定が。 ちなみに初期タイトルは「血潮」でした。痛。 |
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