真剣なその目は一刻一刻と表情を変えているようで、その全てが初めてみる、新鮮なもので、現実的で、現実を欠いて、乖離しているような浮遊しているような妙な心地。

いたたまれなくて、喋る。

返ってくるのは生返事がほとんど。それでもたまに、まっとうな返事が返ってくると不思議と嬉しかった。

それが結果、集中力を削ぎ、迷惑になっているのはわかっているけれど、止められない。

何故か楽しい。



「それでさ、土曜日の7時。シードルは何見てるかな?

私はね、まぁ『xxx』なんだけどね。意外って思う?

実は司会の人が好きだって、ただそれだけなんだけど」

「ふぅん・・・・。」

「でもまあ、なんというか。なかなか賛同してくれる人がいなくて寂しいわけですよ。

わかる?っていうか、司会だよ?

司会っていったら皆に幅広く好かれてないといい数字が取れないと思うんだけど」

「・・・・うん・・・・。」

「まあでもそれも味ってヤツかもしれないよね?

シードルはそれで結局土曜の7時は何見てるの?」

「見ない。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「そういえばさ、知り合いに『xxx』っていう人がいてね。まぁ、変なヤツなのよ。

それでこの間ね、何があったと思う?」

「さぁ。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」



シグマはちゃぶ台返しを強行した!!



「なにやってるのさ!!」

「なんでそう私の提供する話題をことごとく流すかな!?」

「落ち着きなよ!子どもじゃないんだから!!」

「子どもよ私は!!14歳だもの!!」

「いい子だからおとなしくモデルしててってば!」

「同い年なのになんで子ども扱いするのーッ!!」

「自分で子どもって言ったじゃん!」

「言ったけどだって同い年なんだもんーッ!」



「収拾がつかないよ」

「そうね・・・。」

シグマはすごすごと引き下がる。とは言ってもおとなしくしているわけではなく、きょろきょろと辺りを見渡しては性懲りもなく話しかけたりして。

「君ってさ」

終いにはシードルが呆れた声で言う。

「飽きっぽい人間だったりする?」

「ううん? 意外と一途だったりするんだよ?」

にこっと、いや、にやっと笑うシグマ。

取り敢えず今は、話題を提供されて嬉しいらしい。

シードルはふうんと頷いて、す、と目を細めてシグマを見る。

「じゃあ、モデルっていう仕事に興味がないんだね?」

「えぇえ!? 待って!! そんなことありませんっ!!

ありませんとも店長!!」

「誰が店長だよ」

あたふたと、少し大袈裟に思えるくらいに慌ててみせるシグマ。

「い、言い訳してもいいですかっ!」

はいっ、と、小学生が発表するときみたいに挙手をして、恐縮しつつ。

「取り敢えず、落ち着こうよ?」

二、三度深呼吸をして、シグマは改めて表情を引き締めた。

「実は初めてのアトリエに緊張しています。」

大マジな表情でそう告白するシグマ。いつの間にやら正座までして。

「緊張すればするほど饒舌になったりするわけです。」

「へえ?でも、君のお父さんも画家なんでしょう?」

「おやぢのアトリエには興味ないんで」

シグマはすっぱりと言い捨てた。シードルはそんな彼女をまじまじと見つめる。

「それ以前に、君は芸術に興味なさそうだけどね。」

微笑しながら言うと、シグマはきょとんとしてシードルを見た。さっきみたいに即座に否定するかと思いきや、決まり悪そうに笑って視線を逸らせて、それで終わり。

シードルはシグマを興味深げに見つつ、次に何か行動を起こすのを待っている。

「ないことは・・・ないけどさぁ・・・・。」

言いよどんで、ちらり、とシードルを見る。思いがけずまともに視線が合ってびっくりしたように体を僅かにすくめて、一方でシードルは背景みたいにじっと見つめているだけ。

背景のクセに存在感ありすぎだ、と毒づく。

「私毒属性が良かった。」

「何?」

「だってあたし刃属性だもん。負けすぎだわ。」

「・・・??」

すねたように俯いて、ぶーたれた表情で床いじりを開始するシグマ。

さっきから、シードルの手は止まったままだ。全く仕事になっていない。

「えーっと・・・。」

言葉を探して思考を巡らすシードル。

すると急にシグマの表情にぱっと光が差した。

「その通りなの!!」

急に大声を出すのでシードルは驚いた。

「何!?」

「シードルの言うとおり、実はあんまり芸術に興味なかったよ。」

シグマは、思い切り意地の悪い微笑を浮かべて。

「でも、シードルの描く絵は好きだ。」

そう言った。

「・・・・。」

「・・・・。」

「・・・・。」

「ノーリアクションかよ!!」



シグマは全力でツッコんだ!!



「その反応はちょっと恥ずかしすぎだよ!」

「え?何?今の、ネタ?」

「へへへ、感動した?」

嬉しそうに笑うシグマ。やはり意地悪い笑みだけれど、それはどこか照れ笑いにも似ている。

「そういえば、君ってさ。僕の絵、見たことある?」

小首を傾げて訊ねると、シグマも同じように傾げて答える。

「あるよ?」

「ふうん・・・・・・。」

首を元通りに起こしたとき、シグマがあっと声を上げた。

「そろそろ帰らないとやばい!!おとーさんに怒られちゃうわ!」

「そうなの?門限早いね。」

「晩御飯の時間には家にいないといけないの。そのあとでまたこっそりと出かけるんだけども。」

「不良ー。」

「だって泥棒だもん。」

シグマはニヒルに笑う。

「・・・そうだ。バイト料。君ってば神出鬼没だから日払いにしておくよ。」

「気が利くねー!でさ、その話なんだけど。」

「何?」

次の言葉を待っていると、シグマは頭をぽりぽりと掻いて、ちょっと迷ったように視線を泳がせる。

そして決意したようにシードルを見た。

かと思うと、今度は背を向けて半歩ほど前へ進んで無造作に置かれたキャンバスの一つを指差す。

「今日は記念すべき初任給ってことで代わりにコレ頂けたらなと思うんですが」

うかがうように、シードルを見る。

シードルは困ったように、腕を組んで考える仕草をする。

「僕は構わないけど・・・・。それ、描きかけだし、銘も入ってないし、多分、全く価値無いと思うけど・・・・。それじゃないとダメ?」

「これがいい。」

シグマは、真剣な表情をしている。

「あ、でも銘が入ってないのはアレかな。んじゃ、さくっと空いた所にでもいいからサインして?」

「君って、変わってるねぇ・・・。」

早く早く、とそのキャンバスを突きつけられてシードルはため息をついた。



「それじゃーまたっ!」

「今度はちゃんと真面目にやってね?」

「大丈夫!!まかせなさい!!」

「本当かなぁ・・・・。」







「ただいまー。」

そう言って、少女は窓から自室に入る。もちろん、迎える声はない。

そして、暑苦しい外套を脱ぐよりもまず、小脇に抱えたキャンバスを、殺風景な部屋に唯一つ、不似合いで不自然なくらい鮮やかな呈色で飾られている絵の横に、置く。

それがしっかりと座っていることを確認して、少女はそこから少し離れて、それを見る。

並んだ二つの絵。一方は未完。

そしてその両方に、同じ名が記されている。

少女は、誰にともなく、心底嬉しそうに、笑った。















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・独り言・

ちなみに私はIQサプリ見てます(聞いてない)
ちなみに私は緊張すると喋れなくなります(聞いてないよ)
つづく、とか書いていないけど取り敢えず続いちゃってるので、
やっぱりまとめた方がいいのかな。
しかしどうも、シードルとシグマの絡みを書くとセリフが多くなります。








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