夢か現実かもわからない記憶がある。まるで切り離されたように、その前も、その先も繋がらない記憶。

僕は歩いている。
憶えのない顔の男に手を引かれて。
歩く道はどこか懐かしい、けれど知らない道。幼い僕は、どこへ行くのだろう、と思って男の顔を見上げる。黒っぽい茶色の髪はボサボサで、無精髭を生やしている、やせぎすの中年くらいの男だ。
やはり記憶の誰とも一致しない。

手はがっちりと掴まれて痛いくらいだ。
「どこへ行くの?」
尋ねると、ぎらぎらとした目が僕を見下ろす。
「君はシードル=レインボウだね。」
それは僕の名前。何を今更、と思いつつ、その通りだから頷いた。
結局、僕の問いへの答えはない、きつく手を掴まれて、強く引かれて僕は疲れても立ち止まることもできずに歩き続けるしかなかった。
どこへ行くの、どこへ行くのと自らを精霊と名乗る者達が僕の周りで口々に問う。
そのたびに僕はわからない、と機械のように繰り返した。すると男は僕を奇異な目で見る。
それは今思えば当然の反応なのだけど、僕はその眼差しが不快で仕方なかった。精霊が見えないなんて、僕の知ったことではないのだから。

しばらくして、くたくたになるまで歩いて、僕たちはようやく立ち止まった。
そこには大きな洋館がそびえていた。これでもかというくらい荘厳な雰囲気。そして相当古い。
僕はまた手を引かれて、今度はその中に入っていった。古い、かび臭いその中へ。
重い、重い扉の奥の広い空間に、ずらりと黒い棺桶が並んでいる。男はそのひとつひとつの名前を叫び、ひとつずつ撫でたり、口付けたりする。

ただいまクレモロ・センティローズ。今戻ったよラクシー・ガーデン。

狂気じみた所作。蓋はどれも固く閉ざされていてその中身は伺えない。
そうして、奥へ、奥へ入っていく。

とても長い棺の列。ようやく訪れたその最後は、蓋の開いた、中に何もないそれだった。
そこで男は、しばらくないがしろになっていた僕をようやく顧みる。
そして、僕は手を引かれてそれに足を踏み入れた。
それから、静かに横たわる。
どれもが皆一様な大きさのそれは、僕の体にはずいぶん大きい。
暗い天井を眺める僕の視界に、男が映った。
視界が少しずつ黒に占領されていく。
その、真っ黒い蓋が完全に閉じられれば、もう二度と開かれることはないのだろう、と思った。でもそれは想像でしかない。
蓋が閉じられることはなかった。
それを阻んだのは、瑞々しくも毒々しい、植物の蔓。拒むように無数の棘を纏った。
それが棺の縁を、歪に這っている。これでは蓋をすることができないだろう。そして、その蔓は僕の体から伸びている。
帰ろう。かえろう、カエロウ、精霊たちがそうはやし立てる。僕は帰らなきゃ、と思って体を起こした。男が何事か叫びながらのたうち回っているけれど、僕の関心はそこにはなかった。
帰らなきゃ、と歩き始める。がたり、がたりと、閉じられた棺が、僕の周りで音を立てて震えはじめた。
僕を呼んでいるような気がした。
でも僕は歩き続ける。

僕は失望していた。

死んだようなモノトーンの色彩。這入ってきた緑もまだ物足りない。

赤い花が咲けばよかったのに。




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・ひとりごと・

ケータイでぽちぽち打ってたヤツ。
短いけど、こういうのは無駄に長いよりはいいよね・・・?


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