『空を見上げて』(MV2)



「あっ!カルラー。」
ジャスミンが振り返って微笑んだ。カルラはジャスミンに微笑を返すと、ごく自然にその隣に腰掛ける。
それから二人は空を見上げた。
空はいつも違う形をしていて、見上げる度遠い宇宙を思い出す。
最近、空を見上げる事が多くなった。あの屋根裏の物置部屋が封鎖されてから、二人は、否、二人のみならずクラスメイトの皆は、まるで示し合わせたかのようにここに集まって、そして空を見上げる。
それで泣くこともあるし、笑うこともある。
ふわふわと風が通り抜けた。
元来無口なカルラと、お喋りだけれど今は静かな気持ちのジャスミンは、特に会話するでもなくそのまま沈黙が流れる。
不意に。
体が軽くなったような、宙に浮いた錯覚でジャスミンは素っ頓狂な声を上げた。
「なにっ?!カルラ!?」
気がつけば、ジャスミンはカルラの腕の中にすっぽりと納まっていて、コトの犯人であるところのカルラは嬉しそうににこにこにこにこ笑っている。
「もうーっ!びっくりしちゃったじゃないのさっ」
ふくれっ面をして見せても、カルラの緩んだ笑顔は一向に変わらない。
それから、また二人は寄り添ったままで空を見上げた。
風が流した雲が、また新しい模様を形づくっている。
「ねぇ、カルラ。」
ジャスミンがカルラを見上げ、それをカルラが覗き込む。
ジャスミンは笑っている。
「宇宙へ行きたいね。ニウマーナでも行けないようなさ、ずっとずっと遠くの方!」
心は太陽系を抜けて、更に更に外へ。
ジャスミンの小さな指が指す、そのずっと向こうにそれはある。
カルラは嬉しそうに、楽しそうに笑って、ジャスミンの頭をぐりぐりと撫でる。ジャスミンはその僅かな痛みを非難しつつも、やはり意識は駆け巡る。
遠い遠い空へ。





『グリーンポイント』(MV)

呑気に秋晴れの空を眺めていたら木枯らしが吹き抜けて、思わず肩を竦めた。
風上を振り返ってみてもそこに何があるというのか。いたずらな風をもたらす誰かは、そんなところに居やしないのに。
「うー、寒ィ」
寒がりなジュリアは目を眇めて、やり過ごすように地面を見つめる動作をする。ぶつぶつと何か悪態をついているようにも見えるが、風音に掻き消されてジュリア本人にしかその内容はわからない。
体育の授業が始まる前の、テンションの上がりきらない曖昧味な雰囲気が、ジュリアはなんとなく好きではなかった。暑すぎる日も、寒い日も。
ここにシードルでもいれば「秋だねぇ」とでものんびりとつぶやいて、「もう冬だろう、これは」とでも言い合うのだろうけれど、シードルはいないし、ジュリアが何と言ったところで暦の上でも季節はまだ冬には届いていない。
居ないのだから仕方ない、寒いものはしょうがないから、
「寒ィ」
「寒いな」
と、カシスとオウム返しのような、詮のない内容のない言葉を交わす。
首をもたげているような、時計の針を仰ぎ見た。そうするとお腹が空いてきた。アツアツのフライドポテトが食べたい、とふと思う。
ただしアツアツでないとダメだ。
どうしてもそこは譲れない。
それをカシスにぼやくと、なら帰りに買っていこうという話になった。
今すぐにでも食べたいのは山々だ。けれどジュリアにも節度というものがあるから、そういうことにしておいたらチャイムが鳴った。
ゆるゆると思考を食欲からはずす。
今はそれよりも体育の授業だ。

「寒くなるとやたらテニスするよな。」
「偏見だろ」
カゴの中から、黄色い硬式のテニスボールを適当に鷲掴む…と思ったら、それは黄色より青味がかった、黄緑色のボールだった。
黄色より圧倒的に数が少ない、レアなボールだ。カゴの中に、多くても五個。その確率は…
…知ったこっちゃない。
考えるのもあほらしい。ボールなんて、弾みさえすればいいだろう。
「じゃー、カシスは向こうのコートな」
「おっけー」
今日は風が強いからボールが流されそうだ、と言うと、風のせいにすんなよ、とカシスがにやりと笑う。
こっちの台詞だ、と、ジュリアは言葉の代わりにボールを打ち込んだ。





『星読みたちの戯曲』(MV)


「さそり座生まれのアナタ・・・。
慎重に行動する、不屈の精神の持ち主(ガンコ者??)。
物事を鋭く見抜く洞察力の持ち主で、嫉妬深い一面も・・・。
基本的に秘密主義者で、自己の信念がその生き方です。」

「・・・・なんなのさ、いきなり・・・。」
シードルの予想通りの困惑に、シグマはにやり、と笑みを浮かべた。
「なにって、星占いに決まってるじゃない。
ね、ね、当たってる??」
いかにも買ったばかりという感じの雑誌を手に、シグマは異様に嬉しそう。
「・・・。」
やれやれ、とシードルはため息をついた。
当たっているかと聞かれても、シードルは占いの類は信じないタイプの人間だからなんとも答え難い。
「っていうのはいわゆる話の導入部分ってヤツで・・・。
ほらほら、シードル、面倒くさそうな顔しない。」
ひらひら、と手を振るシグマ。シードルはもう一度、タメイキを吐いて、そっと頬に手を当てた。
・・・いけないいけない。そんな表情をしていたとは。
「要するにね、誕生日おめでとう、って言いたいのよ。」
「え?」
『見る』ことに意識を戻す寸前でシグマは持っていた雑誌を丁度顔の高さに広げてしまって、シードルはその表情を窺うことができなかった。
月刊誌『星占い』・・・笑えないネーミングセンスだ。
「・・・なんでそんなこと知ってるの?」
こて、と首を傾げてシードルが訝しげな表情をする。
シグマと誕生日について話をしたことはない・・・はず。
「シードルって有名人だもん。これくらいの情報はだだ漏れなんだよー。」
にや、と悪い笑みを浮かべるシグマ。
イヤな話だった。言っていることは理解できるけれど、プライバシーは是非とも尊重していただきたい。
さて、とシグマは再び開きっぱなしのページに顔を近づけて、文字を辿り始めた。
「そんなさそり座と相性がいいのはさそり座・うお座・かに座・・・・・。
・・・・・・・・・・。」
シグマの視線が忙しない。信じていないとはいっても、そんな風に言葉を濁されると、シードルも少し気になってしまう。
「・・・・・なに?」
それを聞かなかったことのようにして、ふーん、とつぶやいてシグマはぱたり、と雑誌を閉じた。
「どうかしたの?」
「別にー。」
「・・・・なんか、面白くなさそうな顔、してるよ。」
「え!?」
シグマは慌てて両手で顔を挟むようなアクションをして、その拍子にたいした厚みもない雑誌がばさり、と落ちた。
あーあー、と言いながら、やれやれと雑誌を拾い上げるシグマ。
「まあ、僕は占いなんて信じてないけどね・・・。」
「・・・だろうとは思ってたけどねっ。
でも割と当たったりするじゃない。」
「偶然でしょ。」
「バッサリね・・・・。」
ぱたぱた、と拾った雑誌をはたきながら、シグマは苦笑を浮かべた。
「んー、でもまあ、私もいい結果しか信じないかなー。」
「らしいね。」
「そうかな。」
照れ笑うシグマ。
この話題はここで終わらせてもいいのだけれど、なんだか不平等な気がするので。
「で、そう言う君は何座なの?」
これを最後ということにして、シードルはひとつだけ、質問をした。
「え、私ー?
・・・・山羊座だよ。」
なぜかバツが悪そうにもごもごと答えるシグマ。
「へぇ。」
それ以上の追求は、シードルはしなかった。
後で調べてやろう、なんて思ったかどうかは、本人のみの知るところ。




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