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「こんにちは、バケモノさーん。」
いかにもやる気の無い調子でジュリアが言う。
隣に居るカシスにまで伝染してしまいそうなやる気の無さだった。
「つーかお前の魂胆とか見え透いてるけどー。敢えて釣られちゃったと見せかけて本当にモノを取り返しに来ただけなんで、いいからさっさと返しやがれ。コラ。」
誰も居ない廃墟に案内役が居るわけも無く、ジュリアはまるで宝探しをするようなテンションで部屋ひとつひとつを細かくチェックした。
言ってしまえばその行為は結果的には意味はなく、最終的にいかにもそれらしい最下層の大部屋―つまり、ここ―にたどり着くまで、一切の収穫も発見もなかった。
せいぜい、この館が古くて、人が立ち入っていないということを再確認した程度。
そしてたどり着いた部屋に、棺と布陣、紋の刻まれた銀の杭(針の形状だが、大きさや太さが杭と呼んでいい次元にある)、それから、異常な密度の亡霊たちを、見出した。
『威勢のいい人間だ』
目の前にはだかる、ファントムの塊。寄り集まって、人間に近いが人間でない形を取り、顔らしき場所の口らしきものを歪める。
「おい。しゃべったぜ。」
「しゃべらされてんだ。操ってる親玉は言わずもがなだろ。
だがしかしまあ、弱いやつらだが群れるとうぜぇなぁー。」
沈黙する棺を、濃い亡霊の霧が覆う。
その塊全てを焼ききる魔法の火力を計算しようとして、諦めた。
こんな狭く埃っぽい場所で花火大会など、正気の沙汰じゃない。 第一、大事な燭台を炙る気だってさらさらないわけだ。
「随分とファントムがお好きなようだが、そんなに相性がいいわけか?」
『それを知ってどうする?』
「別に。随分といやらしい封印で守られてるわりにはお供が雑魚いからちょっと気になっただけだ。」
人間(ジュリア)の声と、喋る亡霊の塊の音と、何かの慟哭が木霊する石造りの空間に、ぽむ、ぽむと軽い音をたてて、刃の精霊が出現する。
あからさまな臨戦態勢にも、向こうは気にした様子もない。切り裂く刃など、肉体持たぬものにとっては脅威でもなんでもないのだろう。
『そこそこの知識はあると見える。
ならば、何をすべきかも、わかるな?』
「正確に言おうぜ。『何をしてはいけないか』、だろ。」
布陣に目を配る、ジュリア。もっともそのためには、濃い亡霊の霧があるために目を凝らさなければならなかったが。
ざわり、ざわりと霧がゆれる。
笑うように。
『逃れられると・・・思っているのか?』
ざわ、と大きな揺らぎを感じて、ジュリアは一瞬息を止めた。それは身に染み付いた反射のようなものだったが、今回はそれには特に意味がない。
「・・・いい加減早くしろ、お前ら!」
苛立って発した言葉を引き金に。
「『エクルヴィス』」
「『みさいる』」
二種の魔法が発動した。
ひとつは無数の刃を持って、形を持った亡霊の塊を微塵へと変える。
もう一方は、
「!?」
ジュリア側から見えない方向からの力によって、部屋の壁の一面が崩壊を始める。カシスは一瞬それに驚くが、発動を完了していない魔法にすぐに集中を戻した。
ガラガラと崩れる壁の向こうから姿を現したのは、その壁を崩壊させた魔法を紡いでいるアンジェリカ。
その奥に。
「集めろ、シードル!」
「りょーかい。」
シードルが目を閉じると、その体が明滅しだす。
・・・いつか見た光景だった。
削り取られた小さな亡霊たちは、本能のようにシードルの元へ還ろうとする。
そして。そのシードルの足元に、布陣。
―渦に呑まれて、虚無へと向かえ―
聞き慣れない言語で、ジュリアとアンジェリカが言霊を送ると、魔法陣の軌跡が光を帯びて、そちらへ向かうファントムを渦のように巻き込み始めた。
風があるわけでもない。それでもその流れは強力で、それに引きずられるのではないかと錯覚しそうなほど。
霧が晴れていく。
魔法陣が光を失った後。ジュリアは目敏く、埃の積もった床の上に、僅かにかたまったファントムを見つけた。
「・・・・。」
火種を手の中に、それに歩み寄る。
『・・・思い上がるな、人間・・・。』
「・・・・。」
『貴様らは我のか弱き配下を害したのみ。
その程度では、我は』
「うるせーよ。
そいつらが居ないと今のお前は何も出来ないクセに。」
火種を紅蓮の炎へと転じて、至極面倒くさそうに、それを投げつける。
「てめーは大人しく寝てろ。」
じゅ、という蒸発したような音を残し、最後のファントムも、煤も残さず消え去った。
「おつかれー」
4人揃って、ハイタッチ。
ぱしん、ぱしんといい音が続いた後、他はその場に待機するよう指示して、ジュリアが最後の宝探しへといそしむ。
「・・・・。針が、足りないな。」
封印を見渡して、ジュリアが渋い声で呟く。
「針って、この銀色のヤツだよな。」
「ああ。触るなよ。絶対に。身の安全は保障しないぜ。」
「針が足りないってことは、封印が不十分ってこと?
それであんなことになったってわけ?」
「ああ。そうだ。これは再封印の必要があるな。まあ、俺達には関係ないけど。」
「だが、こんなもの、どうやったらなくなるんだ?
自分で抜いたのか?」
「いや。自分で抜けるなら封印の意味が無いだろう。
おおよそ、誰かが間違ったか何かで抜いちまったんだろうな。 ・・・馬鹿なことを。」
「・・・・。」
分析するジュリアの声色に、不可解な色が混じって、カシスとシードルは首を傾げた。アンジェリカは遣る瀬無い表情で、俯いてしまっている。
「あの杭は、魔法使いにしか抜けないものです。
・・・あれを抜いた方は、恐らくもう生きていらっしゃらないでしょう。」
「・・・・・え?」
「そういう封印なんだよ。いやらしい封印だ。
この針は魔法陣の作用を補助するためのものだが、おそらくこれ全てを排除するだけで封印は破られるだろう。
だから、封印を守るために、一本一本に強力な呪いがかけられてる。
端的に言えば、本数分の魔法使いが、封印の解除に必要なんだ。
よっぽど、表に出せばまずい魔物なんだろうな。」
「・・・それを抜かせるために、僕らを誘い込んだってわけ。」
「ああ。だが相手を誤ったな。
・・・お、見っけ。」
銀の杭をぬって、棺のかげから、ジュリアは青銅色の燭台を拾い上げた。
「よっし。これでウィルオウィスプのヤツらに報告しても大丈夫だぜー。」
「・・・なんか、釈然としないんだけど・・・。」
思えば、其れさえなければここまで来る必要もなかったのだった。
「・・・・あれ。ジュリア。」
溜息をついて、こちらへ帰ってきたジュリアが持っているものに、シードルはふ、と視線を留める。
「なんだ。シードル。何か文句あるか。」
「なんかそれ、僕どこかで見たことある気がするんだけど・・・・。」
「ふーん。
気のせいじゃね?」
「・・・・いや・・・。いやいやいや!
っていうかなんで君が持ってるのさ!?それ、魔法院に安置されてるやつだよね!?」
「おいおい。これをあんなニセモノと一緒にするなよ。」
「・・・お兄様・・・。」
アンジェリカがやれやれ、という表情で、ジュリアの背中をつつく。
それでなんとなく悟ってしまった。
「裏のルートって、まさかそういうことなのか・・・?」
「誤解の無いように言っとくが。これはもともとウチのものだからな。
それなのにいつまでも上がいちゃもんつけてうざいから仕方なく折れたように見せかけてるだけで。」
「・・・・お兄様、そんなにぶっちゃけてよろしいんでしょうか。」
「お前らが黙ってれば何の問題も無い。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「おーけい?」
「「そんなものを家宝にするな!」」
「・・・家宝にする価値があるからそういうことになったんだろうが・・・。」
「報告は以上か?」
「ういーっす。」
その内容を反芻しながら、報告を受けたガナッシュは椅子に座って足をぶらぶらさせているジュリアをじ、と見る。
「・・・何か、隠し事してないか?」
そう問うと、ジュリアは予想通りにあはは、と朗らかに笑った。
「俺が隠し事なんていつものことだろ。いちいち気にしてんなよ。」
まったくもって彼の言うとおりだ。
「そうか。たまたま気が向いたから、わざわざ立ち入り禁止の区域内に入ってまで中の封印を確認した、というわけか。ジュリアが。」
「そうそ。オトモダチがとり憑かれちゃっておまけに自分のウチに押しかけられたりなんかしたら、いかな俺でもじっとしちゃいないぜ?」
「意外に熱いところもあるんだな。」
「っつーか、俺正義感のカタマリだからね。」
冗談を交し合う友達同士のように、ガナッシュとジュリアは笑いあった。
しかし、二人とも、目が勝負師のそれである。
「ま、冗談は置いといて、後始末は頼んだぜ。
ウチでやれと言われたら請け負うが、こればっかりは友達料金とはいかないからな。」
「ああ。俺が一意に決めることじゃないが、恐らく頼むことになるだろう。口止めの意も兼ねて。」
「ふーん。面倒なセカイにいるんだな。お前も。」
「まあね。」
一方で、コメット家。
鈍い青銅色の燭台の前で、アンジェリカが手を合わす。
「なかなか無茶をしたね。」
「お母様。」
背後からの母親の声。けれどアンジェリカは振り返ることもなく、手を合わせたまま燭台を注視し続けている。
「お前が『それ』を手放すとは思わなかった。
いや、それこそが予想通り、というべきなのかもしれないけど、ね。」
「お兄様のため、ですからね。」
「本当に、それだけ?」
「・・・・。」
母親の言わんとしていることを理解し、目を閉じ、うっすらと笑む。
それはどこか幸せそうに見えた。
「家宝だなんてあの子は言っているけれど、『それ』はお前のモノだ。大切にするんだよ。」
「はい。言われるまでもなく。」
その燭台は火を灯さない。
障子越しの薄い光で、そのカタチを見出す。
いつの間にか母親の気配は消えていて、遠くから馴染みの深い声が聞こえる。
兄だ。
アンジェリカは、静かにゆっくりと立ち上がり、その声の方角を目指した。
「お帰りなさい。」
おわり
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・独り言・
終わりました。
と、いうか、連載当初、メニューのぷち解説に「御三家」と書いた自分に、どこでガナッシュ出すつもりだったのか本気で問いただしたい。
マジで思い出せない。
最近マジバケサイトあんまり行かないので(・・・)あれなんですが、御三家って呼び方は今も健在なんですか?
もしかして死語?(ぐふ)
なんか釈然としない部分とかあるかもしれないんですが、取り敢えずこのお話は此処で終わりです。
物凄く期間が開いてもうしわけありませんでした・・・orz
ここまで読んでくださってありがとうございました!
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