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「・・・ア・・・!!」 もともと眠りの浅いほうであるジュリアは、聞きなれた声の呼びかけと、どこか緊張したような空気に、睡眠状態から覚醒した。 「・・・んだよ・・・・・」 まだひどく眠い。生返事をして、それから音沙汰が無ければ10秒を待たずにすぐにでもまた眠れそうだ。しかしそうはいかなかった。 声の主は、もどかしげに、苛立たしげにジュリアの体をゆすったり、絶えず呼びかけたりを繰り返す。 「真面目に聞いて・・・!!ねえ・・・・これ・・・何・・・!?」 最後には、その声が今にも泣きそうになったので、ジュリアはようやく瞳を開けた。そして目に飛び込んできた光景に、一気に脳が覚醒する。そういえば、覚醒前に目蓋が何か光の圧力を感じていた気もする・・・・。 ジュリアの顔を覗き込むシードルの体が、淡く発光し、点滅している 「・・・・・SOS・・・・・」 「・・・・え・・・?」 言葉の意味を知りたいシードルの意思は届かず、ジュリアは何かに反応するようにして天井を仰ぎ見る。そして軽く舌打ちをしたあと、まだ寝ていたカシスを蹴起こした。 「・・・!?なんだ??」 「お前はシードルを見てろ」 それだけ言って今にも部屋を立ち去ろうとする。そんなジュリアをカシスはわけが分からないという風に引き止めた。 「どこへ行くんだよ」 引き止められて少しジュリアは不機嫌そうだが、しぶしぶ後ろを振り返る 「家の結界が反応している。」 「で?」 「邪な何かがこの敷地内に侵入しようとしてるってことだ。シードルの体に残されたファントムが発する信号に引き寄せられてな。しかも半端な量じゃない。俺はそっちを見てくる。」 「それはわかった・・・・。で、俺は一体どうすればいいんだ?」 「・・・・」 面倒くさそうにため息をつくジュリア。扉に手をかけたまま、シードルとカシスを交互に見る。 「簡単なことだ。結界を押し切って入ってきたファントムがお前らに接近しようとするなら、そいつらを追い払え。実体も心も持たないあいつらにお前らの魔法は効かないだろうが、カシスは俺の母さんの施しを受けた手で魔法を放てば効果がある。」 「・・・シードルは?この光ってるのは大丈夫なのか?」 「ただ光ってるだけだ。心配ない。そいつはシードル本人をどうする力もないから、こうして仲間を呼んでるんだ・・・・。放っておけ」 そう言って、ジュリアは足早に去っていった。 「・・・・大変なことになってるみたい・・・」 「・・・・シードル、本当に大丈夫か?」 今のところ何の異変もない室内を警戒しながら、カシスは相変わらず点滅を繰り返すシードルを窺い見る。そんなカシスにシードルは小さく笑いかけた。 「本当に大丈夫だよ。ちょっと・・・耳鳴りがして体が震える以外はなんともないんだ。 ・・・・ただ・・・・・。」 「ただ?」 小さく眉根を寄せ、言葉を濁らせるシードル。カシスは一度、聞き返してそれから返事を待つようにしてじっとシードルを見る。 本当は言いたくないんだけど、とでも言うように、シードルは顔を歪ませた。 「どうした?」 「・・・悔しいのさ。」 言い訳をするときのようなふて腐れた表情で、吐き捨ててふいとそっぽを向く。 「なんだかとても不安なんだ・・・。これは何?これもあいつの仕業なのかな・・・? どうして僕はこんなに気が滅入っているんだろう・・・。」 意思に反して震える体を苦し紛れに押さえつけながら、シードルはさっきの言葉どおり、とても悔しそうな顔をしていた。感情の一部を何かに操られそうな、嫌な感覚に必死に対抗しようとして、今はまったく自分の外側に意識を向けていないシードルを、カシスは心配そうに見やる。 「・・・もっと前向きに考えろよ。あいつのお袋もそういってただろ」 「・・・・なんて言ってたっけ・・・?」 「えーっとな・・・・。前向きに考えてれば憑き物が逃げていくとか、そんな話だよ。」 シードルはうつむきかけていた顔を上げて、カシスを見た。その瞳が、さっきより幾分しっかりと前を見据えていたのが、カシスには分かった。シードルはさらに、意地悪い笑みを浮かべる。 「嫌がらせだね。」 「・・・は?」 「僕の中に居る不法侵入者に、さっさと出て行くように嫌がらせをするんだね」 「・・・・ま、まあ・・・・。言い換えればそうかもな・・・・」 「じゃあ、楽しくなるようなことをしようよ。それじゃあまず、カシスの人生最大の失敗談。どうぞ。」 「って、なんでそうなるんだよ・・・・」 「だって聞きた・・・」 言葉を途中でやめ、シードルは振り返る。カシスがそうしたのもほぼ同時だった。 「・・・なにか・・・いる・・・・?」 「これは・・・・・」 半球状に張られた結界が、絶えず障害物に当たり、バチバチと嫌な音を立てている。その激しさは、異物・・・つまり結界が反応する対象になる魑魅や魍魎による接触でもない限り、普段は不可視である結界の、ほぼ全体像を捕らえることができるくらいだ。 ・・・完全に、結界は、濃さにムラのある白い霧状のものに覆われていた。 「結界はちゃんと自動修復になってるよな?」 「ええ・・・。でも、この様子では、修復前にいくらか入ってくる・・・」 そういっている間にも、厚いはずの結界の壁は磨り減り、薄くなっていく 「ジュリア・・・。あなたの魔法はやつらに効くでしょうが・・・。古の呪法は使わないのですか?」 「・・・・悪いけど、詞を暗記してないんだ・・・。だから今は魔法のほうがリスクが低い。 どうせ、あいつらは朝日を浴びると消えていく・・・。それまでもてばいいんだろ」 「・・・・」 カガミはじっと結界をにらみつけている息子を見つめた。 「・・・私は、結界の強化に努めなければいけない・・・。あなたに任せて大丈夫ですか」 「・・・・あんた、自分の息子が信じられないのか?」 飄々と放ったジュリアの言葉に、カガミは微かに瞠目する。 「・・・・・」 「・・・・どうした?行かないのか?」 「・・・いえ・・・・。」 カガミは何かを言いかけたが、ふいと顔をそらし、館の中へと消える。ジュリアはしばらくその後姿を見送っていたが、上空から響く、ひときわ大きな音に天を仰いだ。 「・・・ついに破りやがった・・・・。」 透明な膜に開いた穴から、せめぎあいながらこちらに向かってくる、白いファントムたちを警戒しながら、ジュリアは両の手に魔力を宿らせる。そして、狭い穴を通り抜け、広い場所に出て一気に拡散を始めたモンスターに、自らの前へと、導くようにその手に宿った炎を操りだす。 小さく軽い炎にあぶられ、その熱を避けるようにして必然にジュリアの目前に達したファントムは、それを狙っていたジュリアの業火に焼かれ、灰も残さずに消えていった。 そうしている間に、一度破られた結界はさらに光を強め、その穴を縮めてゆく。 叫びのような、うめき声のような不快な音が、幾重にも折り重なって響き、しかし穴がふさがってゆくにつれてその音は小さくなる。 そして、穴がふさがりきるころ、コメットの敷地内に残ったまだ数の多いファントムたちが、寄り合い、集まる。 そして。 「『ダブルトースト』」 ポンッと小気味よい音がして、紅蓮の炎を象徴した、二体の精霊がジュリアの両サイドに現れた。 さらにジュリアが簡単な、一言の呪文を唱えようとして・・・・。それをやめる。 ジュリアは開きかけた口を一度閉ざし、巨大な人の形にも見える亡霊の塊をにらみつけた。 「・・・・・・何が言いたい」 ファントムはゆっくりと、歩むようにしてジュリアに近づいてゆく。人間ならば顔の位置にある、 黒いぼんやりとした形は、なぜか笑っているように見えた。 しかし、無邪気さや素直さの欠片もない、邪めいた陰湿な表情。 口のような黒い影を、しきりに動かしながら、さらに距離を縮めていく 「・・・さっきから、何度同じことを言えば気が済むんだ」 四足歩行の動物がするようなうなだれた格好で、さらにもっと屈めばジュリアに接触するのではないかというところで、それは動きを止めた。動きをやめない口の形は、さっきからずっと同じことを循環して繰り返している。 『まほう・・・まほうつかい・・・・』 「だからなんだ」 今やっと、『音』を発したファントムを、警戒するようにしてにらみつけるジュリア。全く恐れを感じていない、毅然とした態度。ファントムはぴたりとものを言うのをやめ、にたり、と不気味に微笑んだ。そして 『お前は魔法使いか』 「・・・・・へえ・・・。案外まともに喋れるんだな」 『さよう・・・・・。私をただの亡霊だと思ってもらっては困る・・・。』 「しらねえな。俺にはただの亡霊にしか見えない」 トーストを二体スタンバイさせたまま、警戒を怠らないジュリアには、ただのモノと接する如くに全く表情がない。妙に人間味のするこの亡霊は、そんなジュリアの様子を、何が面白いのかは知らないが、くつくつと笑いながら見ている。 『若く未熟な魔法使い・・・。何ゆえ我の邪魔をする』 「お前の都合なんか知るか。そっちこそ、俺の健やかな学園生活を妨害してるだろ。何が悲しくて俺はこんなモノと話をしなきゃいけないんだ?」 『それを言うならこちらも同じだ・・・。お前の都合など、知らない』 「・・・・・。目的は、何だ。」 『・・・・私はただ、魔力のある人間を我が屋敷へ招待しようと、迎えに来ただけのこと・・・・。』 亡霊の顔が激しく歪み、体が大きく揺らぐ 「・・・・!!」 ジュリアは気がついて振り返った。気づかぬ間に、亡霊の白い体の一部が細く伸び、囲むようにして、ジュリアの退路をふさいでいる 『・・・お前の態度は気に食わぬが・・・・魔力があるのならそれでも構わぬ・・・・ ・・・・・来い・・・・!!!』 「ちっ・・・・・・!!」 強行突破を試みようと、ジュリアが魔法を唱えようとした、そのとき バチィッ・・・・!!! 『!!!!うおお・・・・!!!!!!』 亡霊の体がさらに大きく揺らぎ、のけぞるようにしてジュリアから離れた。白いその体に、波紋のように青銅色が広がってゆく 「・・・・!?」 「お兄様、大丈夫ですか?」 しばらく唖然としていて、振り返るとそこには笑顔のアンジェリカが立っていた。 「・・・・アン・・・・今お前・・・・」 『うお・・・!!!ちくしょう・・・!!!人間めぇ・・・・・・・!!!!!』 叫びながら、亡霊は針のように伸びて結界を突き破り、どこか遠くへ消えていった。 「・・・アンジェリカ・・・・・。お前、今何をした?」 「?何って、何ですか?」 笑顔を崩さず、平然としているアンジェリカに、ジュリアは焦れたようないらついた表情をする。 「お前が今投げたものが、何だか分かってるのかって訊いてるんだ」 「ええ。我が家の大事な家宝の燭台のことですね。」 全く悪びれもしないアンジェリカ。ジュリアはがっくりとうなだれた 「分かってたら、お前・・・!!!」 「あれには魔を払う特殊な力があると聞き及んでいましたもの。いくら家宝とはいえ、お兄様の無事に代えられる物などどこにもありはしません」 「いや、あのだからって・・・・。あいつ持って行っちまったじゃねえか・・・・」 「それはまあ、消耗品ではないですから。」 「つまり、取り返さないといけないんだ・・。」 「無理に取り返す必要はないと思いますし、それに取り返すにしてもさっきの状況よりはましだと思いません?」 「・・・・・」 最悪だ、という顔をして、ジュリアはくるりとアンジェリカに背を向ける。 「どこへ行くのですか?」 「・・・あいつらの様子を見てくる」 振り向かずに答えたジュリアに、アンジェリカは納得したようにうなずいた。 「はい、お気をつけて」 つづく。 前へ/戻る/次へ ・独り言・ せっかく呼んだトーストは放置か。 空行をもっと有効活用するべきだと思った。 もしかしたら展開によってはここら辺書き直すことがあるかもしれない。 |
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