「私の調べました情報によると、あそこは古より魔物が封印されているそうです。

あの一帯があれだけ廃れているのも、その封印された魔物の呪いだとか、また事実を知った住民がことごとくそこを退避した為とか言われています。そして御三方が目撃されたあの白い影は恐らくそれの使役生物でしょう。長年に渡って封印され続けている間に、力をつけたのかもしれません」

シードルを診てくれるらしいジュリアの母親の準備が調うまで待機している間に、アンジェリカが情報調査の結果と、それから導き出した推測を述べる。

「・・・にしてもワケわかんねえんだよな。居るはずの守衛がいなかったとか、何でシードルに取り憑こうとしたかとか」

一応負傷したためカエルグミを食べながらカシスはつぶやく。

「・・・雇われた守衛は、全て魔法の心得がありません」

「?」

「むしろ、そういう人物を選んで守衛としていたように思われます。その理由は、恐らくその方が安全だから。相手にとって、危害を加えられないのかあるいは興味がないのか・・・」

「・・・封印されといてそこまで動けるならやばいんじゃないか?」

それまでずっと興味なさげに意味もなく遠くをぼんやり見ていたジュリアが、そこで口を開いた。

そこへ。

「待たせたね」

木の引き戸が開いて、なんだかよく分からないがベテランそうな女性(年齢不詳)が現れる。

彼女がジュリアやアンジェリカ・・・そしてその三人の姉たちの母、カガミ=コメットだろう。

彼女はシードルに、その部屋の中央に描いてある魔方陣の中心に座るよう指示をして、色んな意味でおびえながらも指示通りにしたシードルの前に自分も腰掛けた。

「まったく・・・・。すまないねえ。ジュリアが居ながらこんなことになってしまうなんて。一族の長として申し訳ないよ」

「うるせぇよ。」

「それでお母様、どうなんでしょうか?」

夫人はじっと、黙ってシードルを見つめ続けている。息子の不機嫌顔にはまったく注意を払っていない。

「残念ながら100%の剥離には及んでいないようだね。まあでもこのくらいなら大丈夫だろう。

残留思念があるのが気がかりだが・・・・」

「結局、それは何者なんだ?」

「・・・・幽霊とか・・・ですか?」

「そうだねえ・・・・。元が人間なら幽霊と結論付けるのは容易いけれど、そうではないからね。ファントム系のモンスターだと思ってくれたほうが早いよ。」

「・・・そんなモンスターとは戦ったことがないな・・・。」

夏の出来事を思い返しながらカシスは渋い顔をした。

「そうだね。肉体を持たない分、厄介な相手だが・・・。その代わり、駆逐に腕力は必要ない。

強い意志と集中力と、正しい知識さえあれば、子供でも倒せるだろう。」

「・・・・」

「取り敢えず、完全に憑き物を取ろうとするのは、大量の小豆粒の中に混じったたった一つの小さな石を取り出すようなものだから、精神力も体力も使うしこのままにしておいたほうが良いと思うけど」

「え・・・。それって大丈夫なのかな・・・・」

カガミの発言に本気で困惑しているシードル。

「病気だって、小さくて軽いものならすぐ切開せずに経過を見るだけの場合もあるんだよ」

「そうかもしれないけど」

「残留思念があるから、それが暴れだすと厄介だ。けど、『大丈夫。何も起きない』よ」

「・・・そんな無責任な・・・・」

「・・・・言霊だ。」

ずっと大人しくしていたジュリアが突然口を開いたので、シードルは振り返った。

「コトダマ?」

「古の能力だ。言葉に宿った魂が、言葉を現実にする」

「え・・・」

「大丈夫。要は気の持ちようだよ。君が前向きに楽しんでいれば、憑き物も自然に抜けていくよ。

やつらはそういうのが嫌いだからね」

にこっと、カガミが笑う。それを見ていると、本当になんだか大丈夫な気がしてくるから不思議だ。

(やつらが言霊の力を打ち破らないといいんだが・・・。)

ジュリアはジュリアで気がかりなことはある。しかし表に出すことはしない。

「・・・で、君も、見せてみなさい。」

「・・・俺?」

今度はくるりと向きを変え、カシスのほうに向き合うカガミ。

「何で?」

「手を、怪我したでしょう。」

アンジェリカに指摘されると、ああ、と言ってカシスは自分の左手を見た。さっき、アンジェリカが巻いてくれた包帯が、指先から手首あたりまでを白く覆っている

「カエルグミ食べたし、治ってると思うけど」

「本当に?痛みもない?」

「・・・そういえば・・・まだ痛むな」

手を差し出すと、カガミは包帯を解きだす。やがて露わになる肌に、まだ生々しい黒い傷が残っている。

「魔傷は消えにくいし、傷口から憑依が起こったりしやすいから、ちゃんと清めないと駄目だよ」

そういうとカガミは壺を取り出して、そこから水の滴る榊の枝を抜き取り、それで傷口を数回叩いた。そしてその上に薄いお札をのせてから包帯を巻き始める

「・・・・これでよし。さ、今日はもう遅いし、寝ようかね。」

緊張感の無い伸びをして、カガミは立ち上がった。

「アンジェリカ、部屋へ案内して差し上げなさい」

「はい、お母様」

「母さん、今日は俺もそっちに行くよ」

「・・・お前がそうしたいなら、好きにしなさい」



ただ広い和室に三人して布団を敷きながら、

「・・・・そういえば僕たちって今日、泊まるんだっけ」

ふと湧いた疑問をシードルが口にする。

「・・・なんだかよく分からないうちにそういう事になってるな」

「検査入院兼お泊まり会だ。なんだこの和やかな雰囲気・・・・」

ぽふぽふと枕を叩いて、ジュリアは何かが気に食わないような顔をする。そういえばこの人はさっきからずっと不機嫌そうだ。

「・・・何か怒ってるの?」

心配してというか気になって、顔を覗き込むようにしてシードルが訊ねると、それにでこピンをかましてジュリアはそっぽを向く

「俺は自分の思い通りにコトが運ばないのは嫌なんだよ」

「それで何!?今の!!八つ当たり!?」

「うるさいなあ。呑気に構えやがって・・・・。とにかくお前は、当分あそこに近寄るなよ」

「ええっ・・・近道なのに・・・」

痛むところを押さえたまま、不服そうにつぶやくシードルを、ジュリアは呆れたように見た。

「・・・お前よくトラウマにならないな。怖くないのか?」

「もっと怖い目にいっぱい遭ったじゃないか。エニグマとかエニグマとかエニグマとか」

「それはまあ、あいつらに比べたらあんなのは雑魚だけどな・・・。俺が心配してんのは、その雑魚の背後にあるもののことだ。古の魔物だかなんだか知らないが、俺はそんなものに関わりたくは無い」

「今コトを起こして、校長の手を煩わせるわけにはいかないしな」

「そういうことだ」

「・・・・」

シードルは渋い顔をして、ふてくされたように布団に潜り込む。納得できなくても、納得する以外に無く、ジュリアはそれを無言の承諾として受け取る。

「・・・さ、てと。俺も寝るかな。」

立ち上がって、照明に手をかけてカシスに布団に入るよう促すと、ジュリアはぱちりと明かりを消した。





こうして夜が更けていく・・・・



かに、思われた











つづく。













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・独り言・

この回はちょっと突っ走りすぎちゃって恥ずかしいですね・・・(汗)
独走態勢?
この回の描写、説明はやっぱり適当です。思い込みです。
ジュリアの性格がまだよく決まってないらしい・・・。






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