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それはようやく寒さが和らぎ、日差しのぬくもりを感じ始めた春の初めのある日のことだった。 「っつーか、何で俺を巻き込むんだよ、カシス!!」 「ははは、わりぃわりぃ」 カシスは憤慨した様子のジュリアに、ごまかすように笑う。そんな二人の手には、抱え込むには大きいダンボールの箱が在る。 「お前にも分けてやるから」 「いらねえよ苗なんて。どこに植えるんだよ」 「お前ン家、広いだろ。」 「広さはあるがあれは大人たちの敷地だ。俺のじゃない」 ぶちぶちと愚痴をこぼし続けるジュリアの機嫌を伺っているのか、それとも別に機嫌がどうだろうと構わないのか、取り繕う言葉はどこか呑気だ。 「俺は巻き込む側であって、決して巻き込まれるようなことはあってはいけない」 さほど重そうには見えない箱に顔を隠すようにして、ポツリとつぶやいたジュリアの言葉にカシスはしまりない笑顔から一転、呆れたような顔をする。 「えらく勝手な言い分だな」 「うるさい。黙れ。いつか覚えてろよ」 とか何とか言いつつも、嫌な素振りはするが結局はちゃんとこうして手伝ってくれるのだから、根はいいやつだと思いながら、それは言わない。 言えば照れ隠しの一蹴りが待っている。 「せっかくボスが苗を分けてくれるんだしさ。ジュリアも持って帰れよ。」 「やめたほうがいいな。我がコメット家の敷地内で、まともに育った生物はどこにもない」 「・・・・・・」 それは自分も含めて、なのか、当然のごとく自分は例外とみなしているのか・・・ 一言突っ込んでみたいカシスだったが、あえてそれはやめておいた。 「とにかく、これをお前ン家に運んだら俺は帰るからな。お前がどうしても粗茶を俺にもてなしたいって言うならそれでもいいけど」 「はいはい・・・・。わかったよ。っつーか人の家の茶を勝手に卑下すんな。」 二人が歩いている道に人通りは少ない。民家は少なく、むしろ廃屋のほうが多く、商店もない。 コヴォマカ王国都心部にしては珍しいことだが、一応道も通っているし、近道にもなるのでジュリアたちは時々この辺りを抜け道として使用している。 そしてこの辺りでも特に奥の方に、ひときわ大きな廃屋がある。民家だったもの、というには少しゴージャスで、かつ敷地の広さもある。 石造りのそれは、なぜか、いつも入り口を守衛が守っている。国家の中枢に最も近く、また探究心の旺盛な人が集まる魔法学校ウィルオウィスプでは、必ず一学年に一回はそこの話題が持ち上がるのだ。もちろん、ジュリアたちもその時期を経験済みだ。 「・・・・なあ。」 ちょうどその建物が見えてきた。そしてその入り口に立つ二人の守衛と、明らかにそうでないもうひとつの人影がある。 「だからっ!!!本当に見たんだってば!!」 「あぁ、わかったわかった。もういいからお家に帰りなさい」 「信じてないでしょう!子ども扱いしないでよ!」 必死に訴えてる・・・というか叫んでいるのに、相手にされていない様子のその人は・・・・ 「あれ、シードルじゃねぇ?」 「・・・・なにやってんだあいつ・・・・」 「おーい、シードルー」 「?」 カシスの呼び声に反応して、シードルは振り返った。さっきまでの言い合いの余韻を残してか、その表情はいつになく険しい。そして二人を上から下まで眺めると 「何やってんの二人とも」 「それはこっちのセリフだ」 二人の抱えているダンボールが気になるらしい。完全に会話のテンポをはずしているシードルに二人はため息をついた。それを知ってか知らずか、一旦下がったがまた瞬時に怒りの(?)ボルテージが上昇したらしいシードルはまた激しくまくし立て始めた。 「ちょっと聞いてよ二人とも!!酷いんだよこのヒトッ!」 「だから、さっきも言っただろう。ここは私たちが二十四時間こうやって見張ってるんだから、そんなことは有り得ないんだよ」 非常にやんわりと、シードルを諭す守衛さん。しかしそれを聞き入れるシードルではない。 「それじゃあ、何?僕が寝ぼけてたとでも言いたいワケ?生憎だけど、僕はこれでも魔法使いの端くれなんだ。夢と現実の区別と、幻と人ならざるものの区別くらいは付けられるよ」 「そうはいっても、ねぇ・・・・」 さ、とシードルの表情が凛としたものに変わる。感情的な行動をとった後の、冷静さを取り戻したときの表情だ。むしろ、冷静さを取り戻してもなお自分の意見が正しいと主張するときの表情といったほうが正しい。こういうときのシードルは特に威圧的で、融通が利かない。 「・・・・・・どうなっても、知らないよ」 臨海学校で普通ではない体験をした影響か、その言葉は凄みと深みと脅迫を感じさせる。 十五歳には見えない迫力だが、シードルが年相応に見えた例は少ないために二人はさして驚かない。 「いこ。」 きびすを返して、二人の間を通り抜けて先に行ってしまうシードル。ジュリアとカシスは顔を見合わせて、やれやれとため息をついたあとでシードルの後を追ったのだった。 「それでさぁ、聞いてよー!!」 カシスの家で、出されたケーキにつけられたフォークを握り締めた手で、ガンガンとテーブルを叩きながら叫ぶシードルはもう、ただの子供だ。 「聞いてるから静かに話せよ。」 「うん・・・・」 シードルの話によると、先日、帰りが遅くなってあの道を通ったとき。辺りは真っ暗でまともな街灯もないために、シードルはパウダーを召喚し、その光を頼りに帰路を急いでいたのだが、そこでふと、あの建造物が目に入った。いつもは守衛が立っているはずのその場所には誰もおらず、 不審には思ったものの急いでいたため視線を反らそうとした。そのとき。 「見たんだ。」 「・・・・見たって、何を?」 「白い影さ。縦に細長くて・・・人影みたいにね。それが、あの中にすうって、入っていったんだ。」 「守衛じゃないのか?」 「一応、確かめたよ・・・。さっき。今日になってあそこに立ってる人にいつから立ってるのか聞いたらさ、昨日の晩からだって言うから、話しても気のせいだろうって言われちゃって。 ずっとそこを動いてないし、もちろん中にも入ってないって。それじゃあ、僕が通ったの覚えてるかって言ったら、昨日は誰も通ってないって言うんだよ?僕は確かにあの道を通ったし、パウダーもそれを覚えてる。あの道は滅多に人が通らないし、僕はパウダーの灯をともしてたんだから、通ったらわかるはずでしょう?それにさ・・・・。」 「それに?」 「・・・その影が現れてから消えるまで、すっごく嫌な気配を感じたんだ。・・・恥ずかしい話だけど、動けなくなるくらいね・・・。あんなにぞくぞくしたのに、夢や幻なんて有り得ないよ」 「・・・・ふーむ・・・・」 フォークをくわえたまま、ジュリアは腕を組んで考える。 「シードルはそれが幽霊だと思うのか?」 「誰もそんなことは言ってないよ。幽霊なんて、本当にあるものかどうかわからないじゃないか。ただ僕は何かやばいものかもしれないって・・・。あそこを守らせてる上層部の人に注意を促してほしかったんだ」 「・・・そういえば、何があそこを守ってんだろうな。校長にでも訊いてみようか」 はしたないとジュリアの口からフォークを抜き取りながら、あの人なんでも知ってそうだし、とカシスが提案する。しかし、ジュリアはカシスからフォークをぶん取りながらそれを否定した。 「今あのじじいはガナッシュがらみのことで大忙しだ。確実じゃあないな」 「じゃあ・・・・・。」 折角のケーキにまったく手をつけないまま、シードルは考え込むようにうつむく。そして、ぱ、と顔を上げた 「自分で何とかするよ」 「「は?」」 「第一発見者の務め。よく推理ドラマとかでもあるでしょ?最近見てないけど」 「本気かよ・・・」 「止めといた方がよくないか? お前一対一ならともかく、集団でこられたらどうするんだ?詠唱遅いし打たれ弱いし・・・」 「・・・ケンカ売ってるの?」 「それに、おまえの回復魔法でHPの回復はできないんだぜ?戦闘不能は解除できるけど、普通戦闘不能になったら魔法なんか唱えられねえし」 「・・・・・・・」 正確に痛いところをつかれてシードルはもはや言葉がない。 「じゃあどうするのさ・・・。大人はいうこと聞いてくれないし・・・・。」 「・・・ふむ・・・。じゃあ、今夜俺たちも行ってみようぜ。今日何もなかったらもうずっと何もねえよ。きっと。」 「・・・俺も行くのか?」 「当たり前。」 正直、この時はジュリアもカシスもたいしてシードルの言う事は気にしていなかった。 ただシードルが無茶をしようとしているのを、どうにかしてなだめて止めてやろうと思っていただけだった。気のせいでないにしても、世の中に怪奇はたくさんあるのだ。魔法も含めて。 だから放っておいても問題ないと・・・・ だが、この二人の思惑は、ことごとく打ち破られるのだった・・・・ つづく。 戻る/次へ ・独り言・ 無謀にも長編にチャレンジ。 このあと色々キャラが大変なことになりますが、 まだ過去の自分に比べると自制が効いてるって感じかな(汗) 割と前に書いたものなので季節があってないですがお気になさらず・・・ |
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