彼女の挙動不審は今に始まったことではないので、

というより、それがフツウなので、いちいち彼女が何かするたびにリアクションを取ったり、頭を悩ましたりするのは、疲れるだけで他に何の意味もないから、早い話が、無駄だ。

僕はそれに、彼女という人間と知り合ってから、かなり早い段階で気づいた。



例えば。

ある何の変哲もない午後。

もうすぐ日も暮れようかという時間に、僕は無人の家に帰宅した。

しかし、僕の、自分の住み暮らすその家が、その日、その時間に無人である、というのはどうやら僕の思い過ごしらしかった。

思い過ごして当然だ。

本来無人である家に、非合法な行為でもって這入ってきた、それはまさしく侵入者。

その存在を予知できるような能力を僕は備えていない。



僕を驚かしたかったのかどうか、侵入者は入念にその侵入の痕跡を隠滅していた。

玄関の鍵はきちんとかけられていたし、どこからか、点いていないはずの部屋の明かりが漏れている、なんてこともなく、僕はしばらく、というか、その時までその存在に気づかずに、

まぁ、いわば油断していたわけだ。

だから、僕が台所の扉を開けたとき。

「あ、おかえりなさい。」

約数十秒の間、しばし固まってしまったのも仕方ない話だ。

してやったり、という感じのいや〜な笑みを顔いっぱいに浮かべ、僕の椅子に腰掛けているのは・・・・・。

・・・・・・・どうしよう。

言いたくないな。

「えっ!?ちょっと!!折角のあたしの登場シーンを、手抜きしないでよ!」

・・・・・・・。まぁ、シグマだった。

どういうつもりか、シンプルな柄のエプロンを身に着けていて、

・・・・というか、それは僕の家にあるものだ。どうやって探し出したんだろう・・・。

まぁ、自分のエプロン、っていうものを持っていなさそうな子ではあるけれど。

それから、彼女の前には、ほかほかと温かな湯気を立ち上らせているカレーライスが、全く手をつけていない状態で、置いてある。

「あっ、そうだっ!私、待ってたんだよ、シードルが帰ってくるの!ほら、座って座って。」

シグマは妙に嬉しそうに、椅子から立ち上がると僕にそこに座るように促した。

というよりも、強引に座らせる。

案外力が強い。

「頑張って手料理してみたんだよ。食べてみて?」

「・・・・・。」

僕と向かい合わせに座って(そこはパパの席だ・・・)、シグマは満面の笑みを浮かべる。

確かに、良い時間帯だし、僕もお腹がすいている。

でもやっぱり、ここは何か言ったほうがいいんじゃないだろうか。勇気を持って。

「レトルトカレーは手料理って言わないよ。」

「うん!?何でそう決め付けるの!?」

「パッケージ、転がしたままだよ。」

「・・・・・・・・・・・。

あっ、ホントだッ!!!!!」

やれやれ。どうもこの子は詰めが甘いようだ。そこまでは完璧だったのに。

「うふふー。味には自信があるんだー。」

「ふうん、よく食べるの?」

「そうそう。色々試したけど、コレが一番美味しいの。」

彼女が小芝居を続行するので、僕もそれにのっておくことにした。

どうやらものすごく機嫌が良いみたいだし。

なんか、幸せそうだし。

そういえば、シグマは僕がどれだけうっかり酷な事を言ったとしても、怒らないよな。

ちょっと落ち込んでみせて、すぐに許してくれる。

誰にでもそうなんだろうか。聞いてみようかな。

・・・聞きにくいって。そんなこと。

「ねえー。食べないの?冷めちゃうよ。」

「ん、ごめん。ちょっと1人ツッコミを。」

「へぇ!?シードルもやるんだ!!」

「君は十八番だよね。」

「そうそう!!誰もツッコんでくれないからー。ってなんでよ!!」

「ええぇ!?一体どうしたの、君・・・・。」

ノリツッコミが出た。

やばい。本当に今日はテンションが高い。

「何かあったの?」

「うん?何かって?気になる??」

「・・・まぁ、聞かずにはいられない状況だったね。」

「んー。。。。」

シグマはニヤけの取れない顔で、僕をまじまじと見つめた。

「秘密ー。」

結局、にかっと笑ってそう言うと、立ち上がって食器棚に走っていった。

お湯の中に浸されたアルミパックが目に入る。

元から自分も食べる気だったみたいだ。楽しそうにお皿にご飯を盛っている。

「自分で作ったりしないの?」

嬉しそうにいただきます、と手を合わせたシグマに、僕は訊ねる。

「なんか、刃物の扱いうまそうだけどさ。」

「んー。そりゃあ、包丁の扱いには自信があるんだけどねー。

でも、ダメなの。火が使えなくって。

お湯沸かすので精一杯。」

「そーゆーもん?」

「そーゆーもん。」

シグマは本当においしそうに、レトルトのカレーを平らげ始める。

「あ、でも、シードルが教えてくれたら出来るようになるかもしれないよ?」

シグマと、僕の視線がかち合う。

アイコンタクト。

目で語る。

目でも口でも大いに語るシグマは相当なおしゃべりだ。

「・・・・。わかったよ。」

「やりぃっ☆」

シグマのテンションが更に上がった気がした。まるで天井知らずだ。



結局シグマは、後片付けを僕に任せて、パパが帰ってくる前にさっさと帰っていった。

上機嫌の理由は結局教えてくれなかった。

セキュリティの問題があるので、僕は今度シグマの進入経路を聞いておかなければならない。

同じ手口で泥棒にでも入られたら敵わないから。

彼女がいた最後の痕跡を片付けながら、次に彼女が来るのはいつだろう、なんて考えている僕は、いつの間にやら、彼女の突飛さに随分と馴染んでいるのかもしれない。

これはあんまり歓迎できない傾向だ。



まぁ、彼女の挙動不審が今に始まったことじゃないのは明らかだ。

彼女のすることにいちいち頭を抱えるのも疲れるだけで、無駄だから、

精々、気楽に、楽しんで彼女と付き合っていくのが一番いい方法なんだろうなぁ、と思う。

ちょっと、自信、ないんだけれど。





















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