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「先生、何処に行くの。」
灰色の砂に踵を付けたところで笑う声が響いた。その声は、まるで悪戯を見咎められたような錯覚を呼ぶ。
でも錯覚はやっぱり錯覚で、本当は悪いことなんて何もない。
「シードルも、来る?」
くるり、と回ると真正面に大切な教え子。その表情はその声と同じ色をしている。
2,3歩後ずさって彼のための場所を空けてやると、同じようにシードルも、魔バスから灰色の大地に降り立った。
「僕は行かないよ?」
その後の答えは予想したとおりだった。
声の色も表情も、その言葉も、まるでデジャヴのように容易に描き出すことができた。
その予定調和を糸口に、終幕の前の幕間をひとつ。
「結局、こうなるんだよね。」
「なあに?」
「戦うってこと。先生、知ってる?
僕はそれが嫌で、誰かが助けに来てくれるのを待ってたんだ。」
「そうなの?それは初耳だな。」
「うん。あんまり話したいことじゃないし。本当はね。
そうしたら、カシスが、それなら助けてくれる大人を連れて来いよって言ったんだ。
無茶言うよね、アイツ。それじゃ理論が破綻してるよ。・・・言いたいことはわかるけど・・・。」
段々と語尾が篭って、語る口調が呟くものに変わる。
「・・・じゃなくて!」
「ふふっ」
「あっ、先生!笑うなんてヒドいよ!」
逸れてあらぬ方向に行きかけた話題の修正のやり方が思った以上に強引で、マドレーヌは遠慮がちに笑った。
それにむくれてみせて、改めて仕切りなおす。時間があまりあるわけでもないのだ。
「・・・それでね、今になって思うんだけど、あの時の僕はきっと先生を待ってたんじゃないかって。」
「あら。そうなの?」
「変な話だよね。先生は頼りないってずっと思ってたのに。」
「こら、シードル。本人の前だぞ。」
「あはは、でも、先生のこと、待ってたのはきっと本当だよ。」
「ごめんね。不甲斐ない先生で。先生、自分のことに精一杯だった。」
「ううん。結局、僕は甘えていただけなんだ。本当に僕がやらなきゃいけなかったのは、待つことなんかじゃなかったんだから。」
「そっか。シードルは、一つ大きくなったんだね。」
「うーん、そうなのかなぁ。・・・・あ、違う違う、僕が言いたかったのはそうじゃなくて。」
「なあに?」
どうやらもう一度、話が逸れていたようで、シードルはブンブンと頭を振った。今度はそれに気付かなかったマドレーヌは首を傾げて、シードルの『本当に言いたかったこと』を待つ。
「頼りないなんて本当は嘘なんでしょう?」
「そんなこと。」
「先生が否定しても、僕にはそれが真実だよ。だから、先生。
みんなをよろしくね。」
「・・・。」
顔を見合わせる。シードルは真摯に、マドレーヌは窺うように。
シードルは笑っている。笑顔はシードルの得意分野だ。本心がどこにあったところで、それを塗りつぶすような笑みを浮かべるのは容易い。
そして、彼との付き合いの長いマドレーヌである。
「そんなの、当たり前じゃない。私を誰だと思ってるのかな?」
「僕らの先生。でしょ?」
「よろしい。」
見合わせて、声を潜めて、笑いあう。塗りつぶされていた不安が消えているのを確かめて、確かに笑いあった。
「それが、言いたかったこと?」
「うん。」
言い終えてシードルは空を仰いだ。タイムリミットは迫っている。
「あ、最後にもうひとつ。」
「うん。」
「いってらっしゃい。」
「うん。きっと、みんなで帰ってくるわ。」
最後の戦いを見届けに行く。旅立ったのは6人。その中にシードルはおらず、他のクラスメイトと共に魔バスで彼らの帰りを待つ。
全員で話し合って決めたことだ。
シードルがあまり戦闘向きでないというのもあるが、それだけでもない。
・・・もしも、みんなが、・・・帰ってこなかったら。
そのときはシードルも残ったクラスメイトと共に行く。みんなを「助け」に。
死者を戻す魔法なんてない。それでも、それがみんなの最後の布石。悪あがきだ。
信じているけれど、どんな終わりが待っているのか、・・・わからない。
でも、全部終わった、その時は。
(僕は何か、変わっているのかなぁ。)
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・ひとりごと・
これの主人公はジュリアではないです。
シードルはきっと母性に弱いに違いない。
美属性の最高魔法が回復系ってところがすごくいいと思います。
でも裏を返すと、その回復魔法には最高のコストがかかるわけで。
そもそも、傷は癒さないけど戦闘不能は治療するという概念がよくわからない・・・
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